電子マンガサービス『ピッコマ』の急成長の裏には、社長の金在龍氏の曲げられない信念があった
~ピッコマものがたり2018を取材して~

4月17日、株式会社カカオジャパン(本社:東京都港区)が、電子マンガサービス「ピッコマ」が2周年を迎えることを記念し、「ピッコマものがたり2018」を開催しました。2016年、次々と大手出版社・大手IT企業からマンガアプリサービスがリリースされている中で生まれ、独自のビジネスモデルを構築して急成長したピッコマ。今やLINEマンガに次ぐ売上を築いたピッコマの過去から未来が「ものがたり」として金在龍社長自らの言葉で語られました。なぜ、ピッコマは短期間でここまで成長したのか…そこには金社長のマンガ業界を盛り上げたいという強い想いと信念、マンガへの深い愛がありました。

■「待てば0円」という信じ続けたビジネスモデル

今や様々なサービスを展開するピッコマですが、彼らの最大の発明は、今や代名詞となった「待てば0円」というビジネスモデルです。「待てば0円」とは、マンガ単行本1巻を1話単位に分割し、特定時間を待てば1話が無料で読めるというものです。日本では、単行本1巻を物語の区切りだと考えることが多く、1話という非常に短い単位で区切ることには当初反対も多かったと言います。しかし、金社長は提携出版社を説得し、徐々に「待てば0円」サービスを適用したマンガを配信、その成功と共にピッコマは拡大していきました。

なぜ、金社長はこのビジネスモデルにこだわったのか。その理由は、人々とマンガとの接点を増やしたいからだということです。
彼が日本に留学していた約20年前、日本の電車内にはマンガ雑誌を読む人が溢れていました。彼らは、読み終わった雑誌を網棚に放置していくことも多く、それを別の人が持って帰って読むなど、自然にマンガに触れる機会が多い環境でした。

しかし、最近ではマンガを読む人はほとんど見られなくなり、たまたま見つけた網棚の雑誌からマンガの世界にふれるという人も減りました。一方で、今はスマホゲームをプレイしている人が非常に目に入ってきます。その様な昔はマンガを読んでいた様な人達や、あまりマンガ触れていないに人達に、マンガにふれて欲しいというのが彼の想いでした。一般的に(電子)マンガアプリは、今でも紙のマンガを読んでくれている人をターゲットに、どうすれば電子でも読んでもらえるか…という戦略をとることが多いといいます。しかし彼は、今でもマンガを読んでいる人にはその人達の好きな方法でマンガを読んで欲しいと考えています。その中で、新しいメディアを通じて人々のマンガとの接点を拡張し、新しいマンガファンを生むことがマンガ業界のためになると考えているのです。

「待てば0円」モデルは、マンガとの接点を増やすにあたって色々なメリットがあります。①まず、1話を読み終わった後に次の1話を読むまでに24時間待たなければならないことから、ユーザーはこのアプリへ毎日接続することになり、毎日マンガにふれるという動機付けが出来ます。②次に、この様に続きが解禁になるタイミングを、ユーザー依存にしたことで(例えば9時に1話を読んだ人は、続きが読めるのも翌日9時)ユーザーの生活リズムに取り込ませ習慣化しやすくなりました。③そして、すぐに続きを読めるのではなく、少しの間待つという経験がマンガへの想いを加速させるという効果もあります(「待つ」という美学)。

■徹底して作品の良さを伝える「作品ファースト主義」

また、ピッコマとして最も大切にしていることの中に「作品ファースト主義」があります。マンガの読者は、どのメディアで読みたいかではなく、どの作品を読みたいかでメディアを選びます。作品のことを最優先に考え、配信している作品の魅力を最大限に伝えることが、ピッコマとしての成功にも繋がるという考えです。
特徴的な施策としては、まず①TVCMです。ピッコマというアプリを宣伝するのではなく、”作品の魅力を伝えるCM”を作品ごとに制作しています。15秒のCMの中で、「これは読んでみたい!」と思ってもらうには何を伝えるべきかチームで原作を全巻読み込んだ上で議論を重ね、時間をかけてその作品の魅力が最大限に発揮される15秒を作り上げています。
次に②サムネイル(表紙)の選定があります。マンガをよく読んでいる人達は、表紙に加えて出版社や原作者・作者など様々な情報を見て、読みたいマンガかどうかを考えます。一方で、CMなどから興味を持ちアプリを開いた様な、普段マンガを読まない人達が見る情報はサムネイルしかありません。サムネイルのみで読みたいかどうかを判断されてしまうため、まずサムネイルで作品の魅力を伝えることが重要なのです。サイズを大きく表示することは当然ながら、読者全体の利用データに基づき男性・女性それぞれに最適な表紙を選択するなど、ユーザーひとりひとりが最も魅力的に感じる方法でサムネイルを選んでいます。

これらの施策を行った結果、ピッコマで配信されている作品の中には、10年以上前に出版された作品でありながら再注目されたような作品が多くあります。今回の発表会においても、最後にピッコマアワードという表彰式があり、ユーザーの評価等が高かった3作品が表彰されていましたが、いずれも5年から10年以上前に出版された作品です。ピッコマアワードでは、レインボー賞、スター賞、オーロラ賞という3つの賞があり、「何が優れているかは作品によって違う」という考えのもと、あえて序列をつけることなく各受賞作品を尊重していたところにも、作品ファースト主義が現れているのでしょう。

著作権表記
・ 恋空 切ナイ恋物語:©️羽田伊吹・美嘉/双葉社
・ 死役所:©️あずみきし/新潮社
・ 復讐の毒鼓:©️Meen & Baekdoo

■すべてはマンガ業界のために

このように、ピッコマのビジネスモデルやサービスには、人々との接点を増やしマンガ業界を盛り上げたいという金社長の熱い想いが詰まっています。最後に、ピッコマの最大の特徴として、他社の広告を載せていないということがあります。月間1億円程度の利益になると知りながらも広告を載せていないのは、マンガとの接点を阻害する要因になるという理由からです。例えば、広告を載せるとして、一番話をもらうスマホゲームの広告を載せてしまうと、せっかくマンガを読んでくれている人にゲームを勧めるという本末転倒なことをしてしまいます。また、広告の掲載を行っている類似アプリでは、広告の邪魔が入る代わりに、無料かつ「待つ」などの負担もなくマンガを読み進められることが多いのですが、そのような場でマンガを読むことに慣れてしまうと、マンガの持つ価値を理解してもらないと金社長は考えています。近年巷を騒がせている違法マンガサイトの問題についても、どうやって規制するかという問題以上に、「作品の価値を認識し、正当な対価を払う」という感覚を持たなくなったことのほうが問題であり、その感覚をどのように養成するかが重要である、と仰っていたことが印象的でした。ビジネス的には広告を載せた方が利益は上がるのかもしれないと思いつつも、マンガ業界やマンガにふれてくれる人のことを考える。それが成功に繋がったといえます。
金社長が度々使っていた言葉として「ものがたり」というものがあります。スマホゲームと比較しても、マンガが持つ強みは物語であり、人々が感動し共感し、他人と共有したくなるのは物語があるからなのです。その「ものがたり」を事業説明会でも感じて欲しいと、この会も「ピッコマものがたり」というタイトルで、ストーリーに沿って進められました。事業説明会でありながら、金社長のマンガへの愛と想い、それがあったからこそ成功につながったと感じられる発表会でした。

■取材を通して

取材を通して最も感じたのは、前述の様な金社長のマンガへの愛でした。その中で最も印象的だった言葉は、この様に「真面目に一歩ずつ歩むことが出来たのは、昔好きだったマンガのキャラクターの影響が強い」という言葉でした。「子供の頃のクラスメイトの名前は忘れてしまうけど、子供の頃に読んだマンガのヒーローの名前は忘れない。主人公のことはもちろんだけれど、サブキャラの名前もしっかりと覚えている。」そんな言葉を、まるで子供の様に輝いた表情で話す姿が忘れられません。私がこの言葉を聞いて思い出したのは、世界に誇るアニソン歌手である影山ヒロノブさんが、自身が所属するユニット「JAM Project」の曲として書き下ろした『HERO』という曲でした。誰もが心の中に子供の頃に信じたヒーローを持っていて、その存在がいるから夢を追いかけられるという曲です。そうして、キャラクターやヒーローに憧れるのも、その裏には「ものがたり」があるからだと思います。実際にその歌詞を体現し、自社の歴史を「ものがたり」として語る金社長も、もしかしたらヒーローなのかもしれません。人々が古今東西の様々な「ものがたり」やキャラクターにふれ、自分の中のヒーロー像を確立してその姿を追いかけることが出来れば、ひいてはそれがビジネスチャンスに繋がるのです。
筆者も20年前に憧れたヒーローを思い出し、彼らに恥じることがないか、、、考えながら帰路につきました。

(EFL編集部)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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