「全然旅に出ない!」「旅に出たら帰ってこない!」~中国人女性の間で日本のスマホゲーム『旅かえる』が人気になっている理由とは~

日本発の放置系ゲームアプリ「旅かえる」が中国で大ヒット!このゲームは日本語版しか配信されていないにも関わらず、中国のアプリランキングで1位を獲得し続け、3ヶ月でダウンロード数(iOSのみ)が1800万に近づいた。また、早くも海賊版アプリが作られたり、ぬいぐるみなどのグッズが販売されたりもしている。日本では約100万ダウンロードしかされていないこのゲームが、一体どんな理由で中国のユーザーを魅了したのか?本記事は中国の社会背景と若者のライフスタイルからヒットの原因を分析してみた。(データ出典:AppAnnie)

■「旅かえる」とは

「旅かえる」は、ゲームアプリ「ねこあつめ」で知られているゲーム会社「ヒットポイント」が開発したスマホアプリ。ユーザーが一匹のカエルの旅支度を手伝ってあげると、カエルが旅に出て、旅先で撮った写真を送ってくれたり、お土産を持って帰ってきてくれたりするゲームだ。操作がとても簡単で、時間もあまりかからない、いわゆる「放置」ゲームである。

■ヒット要因1:新しいユーザー層とSNSでの拡散

中国スマホゲームランキングをみてみると、上位のゲームはほとんどMMORPG、FPS、MOBAなどのハードコアゲームで、メインユーザーは20、30代男性である。一方、Cheetah BigData(中国のデータ分析機関)によると、「旅かえる」の中国ユーザーは7割以上が女性で、その大半が都心部に住む20代~30代独身者だ。

可愛い絵柄とシンプルなゲーム性をもつ「旅かえる」が掴んだのは、リアリティのあるビジュアルと複雑なゲーム性を追求する従来のゲームユーザーではなく、SNSで写真をシェアすることが大好きな女性たちだったのである。この層は、まさしく既に飽和しかけている中国モバイルゲーム市場が望んでいる新たなユーザー層だ。
「旅かえる」は予備知識が不要で、タップでアイテムを選ぶだけの簡単操作。その上、ランダムで送られてくる、旅をするカエルの可愛い写真はSNSでシェアするにはぴったりだ。SNS上でカエルを「うちの子」と呼ぶ女性ユーザー達の姿は、公園で自分の子供を自慢するママ達と何ら変わらない様に見える。そうして、舞台を公園からSNSに変えた「子供」自慢は広がり、「旅かえる」のヒットに繋がった。

■ヒット要因2:中国の独特な親子関係

さて、どうして中国ユーザーはみな、ゲームの中のカエルを自分の子のように思っているのか?それはおそらく、ゲーム内ユーザーとカエルの関係性が中国の親と子供の関係性とマッチしたからだ。中国では、80年代から00年代まで施行されていた一人っ子政策の影響により、親がただ一人の子供を過保護に育てることが多い。子供は親の手伝いがなければ自分でうまく生活できなかったり、親が子供のことを心配しすぎて仕方なかったりすることも多い。
ゲーム内のカエルは無愛想な顔をしていて、反抗期の子供と似ている。しかも、ユーザーの手伝いがなければ、カエルは家から出ることすらできないのに、せっかくユーザーが手伝いをしても、カエルが旅に出るタイミングはランダムである。カエルがいつまでも家にいると、ユーザーは「何で毎日家にいて外にでないの?」と、子供がひきこもりになることを心配している親のような感覚になる。一方、カエルが旅に出ても「何でずっと家に戻ってこないの?何かあったの?」と、結局心配してしまう。まさに、反抗期の子供に手を焼きながらも、過保護で子供が心配でしょうがない親の様である。
また、「旅かえる」が一番ヒットした時期は、ちょうど中国の旧正月直前だった。このアプリのユーザー層が都心部に住む独身女性達であることを考えると、彼女らは旧正月にも都会で一人頑張りながら、このアプリを遊んでいたと考えられる。自分が両親にしてもらったようなことを、今度は自分が親となってこのカエルに返すことで、故郷の両親へ思いを馳せながらその孤独感を癒していたのかもしれない。

■ヒット要因3:中国若者の「佛系ライフスタイル」

2017年末、中国で「佛系青年」というネット用語が流行り始めた。これは、穏やかで、強い欲がなく、何事もなりゆきに任せる姿勢で物事に接する若者の男女(中国語の「青年」は男女を含めた若者を指す)のことを指している。「佛系生活」「佛系恋愛」「佛系ゲーム」などの派生語も作られ、「旅かえる」はその「佛系ゲーム」の代表例としてよく挙げられている。
(※ちなみに、「佛系青年」の語源は、2014年に日本雑誌で掲載された「仏男子」である。「仏男子」は一人で時間を過ごすのが好きで、自分の趣味や生活リズムを大切にし、恋愛などに多くの時間を割きたくない男性のことを表現している。(出典:J.People.com.cn))
「佛系青年」のメイン層は90年代以後に生まれた中国の若者で、比較的豊かな環境で育てられており、一生懸命努力して大きな目標を追求するより、目の前にある小さな幸せに気付く方が大事だと思っている人が多いと言われている。「旅かえる」はそんな中国の若者の「佛系ライフスタイル」にかなり合致している。ユーザーは好きな時にゲームを開いて適当にカエルの旅支度をするだけで、気付いたらかわいい写真が届いているなど、簡単に小さな幸せが感じられる。また、カエルの生活を見ても、カエルには敵がおらず、家でご飯を食べたり、本を読んだり、気が向いたら旅に出たり、旅先で友達が出来たり、そこで出会ったものを写真やお土産として送ってくれたりと、自由気ままな生活をしている。このようなゲーム性とカエルの性格が、都会で働いている独身の若者の「成り行きに任せながら、小さな幸せを感じられればいい」という気持ちと一致したのかもしれない。

■これからの中国スマホゲーム市場

今年1月から2月にかけて中国で大ヒットした「旅かえる」は、現在は熱が下がってしまい、総課金額も決して高くはないが、中国のモバイルゲーム市場に新たな可能性を見せてくれた。これからは、従来のハードコアゲーマー向けの、長時間のプレイを前提にしたRPGやeスポーツ系のゲームよりも、2、30代女性に受け入れられそうなライトなゲームがどんどん増えていくと思われる。この「旅かえる」や、少し前に中国で流行っていた乙女ゲームの「恋と制作人」のような、簡単な操作方法に、若い女性のライフスタイルと合致した内容、そしてSNSでシェアできそうなネタが入っているゲームが、1つの人気ジャンルになるのではないだろうか。

(記事:方 錦怡)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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