スマホゲーム『白猫プロジェクト』特許侵害訴訟から考える~ゲーム業界における特許の歴史~

1月10日の任天堂によるコロプラ『白猫プロジェクト』への特許訴訟提起のニュースは、正月ボケの頭を少し目覚めさせて頂きました(私だけ?・・・)。
その後ネット上では、ファンやユーザーからの「ゲーム配信継続への不安の声」のみならず、特許権行使への批判的な内容や、特許制度について誤解されているような意見がいくつか散見されました。こうした状況に少し「違和感」を感じたので、ゲーム業界と特許(知的財産権)の関係について、過去を振り返りながらちょっと調べてみることにしました。多くの人が「ゲームって特許にならないんでしょ?」、「ゲームは著作権で保護するんでしょ?」的な誤解をされているかもしれませんが、実はゲーム業界は昔から知的財産権、特に特許権を活用してきた歴史があったのです。

白猫プロジェクト 訴訟

『白猫プロジェクト』の公式サイトより

■1970年~1980年代:アーケード・PC・テレビゲーム時代

1978年に登場した『スペースインベーダー』は社会現象的なブームとなり、市場にはプログラムのソースコードをコピーし、一部変えたような悪質なゲーム機が多く存在していました。今ならこれらに特許権侵害を主張しますが、当時はまだゲームについて特許をとる文化が無く、なかなかコピーを防ぐことができませんでした。そんな中、1984年に『パックマン』を違法にコピーしたゲーム機を使用していたお店に対し、ナムコがゲームも映画の上映行為のひとつだと主張して、著作権侵害を訴え裁判に勝訴します《東京地裁昭和56年(ワ)第8371号損害賠償請求事件》。これ以後、ゲーム関連の訴訟では著作権侵害の主張が定着しますが、未だこの時点では特許権を活用するには至っていません。

■1990年代:16~32ビット機時代/ビットマップからポリゴン表現へ

この時代は『スーパーファミコン』、『セガサターン』、『Play Station』といったゲーム機の登場により、ストーリーや映像表現が複雑かつ高度なものになっていきました。この1990年代前半よりゲーム関連の特許出願が急速に増加してきました(図1参照)。これらの特許の内容は主に、ジョイスティックやコントローラー等の入力装置に関する技術、ROMカートリッジ等の記憶装置に関する技術、高速に画像を処理したり、リアリティのある映像を生成するための処理装置に関する技術、などのゲーム機を構成する装置(ハード)や制御に関するものです。

図1.ゲーム関連技術についての日本国内特許出願件数推移(検索式/IPC:A63F9/22)

また、この時代における急速な特許出願増加の理由はいくつかありますが、その一つに米国のゲームメーカーや個人発明家により起こされた特許裁判が関係していると思われます。有名な事件として、セガ対コイル氏(個人発明家)事件があります。これはコイル氏の有する画像表示技術に関する米国特許をセガのゲーム機が侵害しているとして訴訟提起された事件です。結果としてセガは裁判に負け、数十億円もの和解金を支払ったとされています。この事件をきっかけに、セガを含めた多くの日本企業が特許への意識を高めたと言われています。この事件以外にも、日本のゲーム業界は米国企業との紛争を多く経験してきており(図2上赤枠部分参照)、特許の重要性を認識してきたと思われます。

図2.ゲーム業界における主要な紛争事例(特許から見た電子ゲーム産業の将来像に関する技術動向調査/平成13年9月/特許庁・技術調査課資料より)

また、1990年代後半になると、日本国内ゲームメーカー間の特許訴訟も活発化してきています(図2下黄枠部分参照)。ゲーム業界の発展・拡大と共に新興のゲームメーカーが台頭してきたからだと考えられます。その一社であるコナミは知的財産権の活用を経営戦略の一つとして掲げていたため、業務用ゲーム機で先行していたメーカーと特許紛争で争う状況となりました(図2下青枠部分参照)。この間には、「格闘ゲーム」から「音楽ゲーム」への流行の移行も背景にあったと思われます。この「音楽ゲーム」ブームにのって、ゲームメーカー各社から様々なタイプのゲームが出て来ました。この「音楽ゲーム」は、曲の進行に合わせてプレイするという性質上、ほぼ似たような構成となりがちなため、特許紛争による各社の争いは非常に多く有りました。ただ、当時のゲームメーカー各社が他社の特許権を意識し、技術回避と新たなアイデアを創出してきたことで、結果として各社オリジナリティのある「音楽ゲーム」をリリースし、「音楽ゲーム」市場の発展に寄与していたのでは、と思います。「音楽ゲーム」の元祖ともいわれる『パラッパラッパー』や、その後のゲームセンターにおける『ビートマニア』、『太鼓の達人』、そして『初音ミク -Project DIVA』といった現在に至るまで素晴らしい作品が継続してリリースされているのも、ゲームメーカー各社の「お互いの特許権を尊重」して開発してきた努力の賜だと思います。
参考までに、当時のコナミとセガの特許出願件数推移を図3に示します。コナミは1999年以降の「音楽ゲーム」特許訴訟時代に大量の特許出願を行っていたことがわかります。

図3.コナミとセガの特許出願件数推移

■2000年代:ネットワーク・携帯機への移行時代

インターネットの本格的な普及とともに、据え置き型ゲーム機から携帯型ゲーム機が伸長してきました。また、携帯電話の機能を用いて遊ぶコンピュータゲーム、いわゆるモバイルゲームも、スマートフォンやタブレット等の発展とともに急成長してきました。そんな中、携帯電話向けソーシャルゲームを提供するグリーが、自社のゲーム『釣り★スタ』にDeNAのゲーム『釣りゲータウン2』が似ているとして訴訟を起こしました。しかし、当時両社は、特許権を有していなかったので、昔と同じように著作権侵害等を理由に訴えざるをえなかったのです。その結果、この紛争は中々結末が予想出来ない争いになり、結局著作権侵害は認められませんでした《知財高裁平成24年(ネ)第10027号 著作権侵害差止等請求控訴事件》。もしどちらかが特許権を持っていたら、より明確な争いになっていたでしょう。ソーシャルゲームでは急速に市場が拡大していた最中だったので、もしかしたら特許取得等の意識は無く、スピード優先の開発がなされてきたのかもしれません。既述のように、業務用・家庭用ゲーム機の開発過程では、昔からの大手メーカーにおいて著作権に加え、他社の特許を意識した開発がなされてきていましたが、ネットワーク新時代における新興メーカーの多くは、この時点で特許権の重要性をあまり感じていなかったと思われます。事実、その後、グリーとDeNAは特許出願を急増させています(図4参照)。
その後、スマートフォンのさらなる普及に伴い、タッチパネルやドラッグ操作を駆使するゲームも普及してきました。
そのタイミングでは、セガが、レベルファイブの『イナズマイレブン』というゲームが自社のタッチパネルを用いたキャラクターの移動に関する特許を侵害しているとして提訴しました。先ほどのグリーとDeNAの事件に似ていますが、こちらの事案ではレベルファイブは特許権を有していなかった一方で、セガは特許権を有していたため、レベルファイブはかなり不利な状況となっていそうです。もしレベルファイブ側がセガに対して有効な特許権を有していれば、その特許(対抗特許)を使って交渉することで和解時の金額に影響を与えることが出来たと思います。

図4.グリー、DeNA、コロプラの特許出願件数推移

■まとめ

確かに特許訴訟を行うばかりでは、「自由な開発ができなくなる!」という意見や、業界自体が疲弊してしまう可能性もあります。しかしながら、自社で苦労して開発し、ヒット作となったゲームの素晴らしいアイデアや技術が、そのまま他社に模倣(真似)されたらどうなるでしょう?多分次回からは新たな投資を行って開発するのがバカバカしくなり、面白いゲームが創出されなくなると思います。そうなると、どの会社からも同じようなゲームばかり提供されることとなり、徐々にユーザーにも飽きられていき、ゲーム業界自体が衰退するかもしれません。
特許制度の趣旨は、「産業の発展」にあります。開発投資を行い新たな技術を創出した者に、一定期間独占権を与えつつ、その技術内容は一般に公開することで新たな技術開発を促して産業を発展させるというものです。ゲーム業界は、2000年代以前のハード中心の時代からIT技術を核とした時代へと変化してきています。このようなIT技術はそれほど大規模な設備投資を行わずとも、アイデア一つでビジネス参入可能という特徴があるかと思います。このような時代こそ積極的にアイデアを保護することが重要であり、特許制度を上手く活用していく必要があるかと思います。そこには、昔ながらの大手企業なのか、新興・新規参入企業なのかといった違いはありません。お互いの権利を尊重し、新たな技術・価値を創造することで、このゲーム業界も発展していくと思います。コロプラも新時代における新興企業の一つかと思いますが、特許出願も積極的に行っており(図4参照)、権利意識の高い会社と思われます。現在同社が保有している特許権が任天堂に対抗できる内容のものを有しているかはわかりませんが、今後の訴訟の成り行きを興味深く見ていきたいと思います。

(記事:大川原 康之)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

 

 

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