『ワンダーウーマン』に乗り遅れたニッポン
国内でガールズアクションがウケない理由は?

Wonder Woman ©Warner Bros.

2017年6月、公開されるやいなや、たちまちブームとなった『ワンダーウーマン』。

DC初の女性スーパーヒーロー、初の女性監督、主演は元ミス・イスラエルのガル・ガドット(美しい!) ―話題性も手伝い、北米興収は4.1億ドル(約410億円)のメガヒットを記録。女性アクションは売れないというハリウッドの常識を覆したのです。以降も、評論家や映画監督、国連職員を巻き込み「強い女性像」やその表現についての論争で冬まで盛り上がり、まさに“全米を席巻”した作品となりました。

しかし、日本はどうでしょうか?

 

■ 欧米は「熱狂」、日本は「冷静」

残念ながら、国内の興収は13.4億円と振るわず、国内興収ランキングでは45位にとどまりました。ここ数年のアメコミヒーロー映画の国内興収は30億円前後ですから、これはかなり低い数字。国内における宣伝コピーや応援ソングが『ワンダーウーマン』の魅力とかけ離れていたことでtwitterに批判が集まったこともありましたが、それすら論争とまでは行きませんでした。

欧米の熱狂ぶりに比べると日本の反応はなかなか冷静です。文化や社会背景の違いからアメコミ作品がそこまで大ヒットしないこともありますが、それにしても、ここまで国内外の温度差が激しい作品は珍しいかもしれません。

なぜ、これほどまで温度差が生じたのでしょうか?

 

■ ハリウッドのトレンドは?

いま、ハリウッドでは「女性主人公」の作品が増えています。まずは、北米における興収上位作品を見てみましょう。こちらは、過去10年間を前後半で5年ずつに分けた北米興収上位10作品です。青は男性、オレンジは女性と、主人公の性別を色分けしてあります。

データ出典:Box Office Mojo

2013年以降のほうが、女性主人公(オレンジ)が目立ちますよね。

注目したいのは、スター・ウォーズシリーズやPIXAR作品など、これまで女性主人公をあまり描いて来なかった人気ブランドです。たとえば、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』はシリーズの外伝にあたる作品ですが、2005年に公開された本編『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』の興収3.8億ドルを大きく上回りました。スピンオフが本編の1.5倍の興収を稼いだことになります。

こういったトレンドリーダーの存在もあり、ハリウッドでは女性主人公の作品がとにかく好調です。

 

■  “ハンガー・ゲーム現象”ふたたび

これほど女性主人公が増えた背景にはポリティカルコレクトネスなどの社会的な事情もありますが、成功事例が生まれたことも大きな要因です。特に、2012年『ハンガー・ゲーム』のヒットは、ハリウッドにおける女性アクション作品の可能性を大きく広げました。これまで、ヤングアダルト向け小説の映画化というと恋愛が中心で、バトルアクションは恋愛を盛り上げるためのイベントに過ぎませんでした。『ハンガー・ゲーム』はその価値観を逆転させただけでなく、恋愛を抑えバトルアクションを強めても女性の支持が得られることを証明しました。

しかし、この作品も日本ではヒットしなかったのです。『ワンダーウーマン』も、この『ハンガー・ゲーム』とやや似たような現象が起こったといえます。

 

■ 国内でヒットしない3つの理由とは?

『ハンガー・ゲーム』現象に学ぶ、日本で海外の女性アクションがヒットしない理由とは何でしょうか?

1.  国内のヤングアダルト向けは “レッド・オーシャン”

まず、ライバルが多いということ。近年、10代~30代を中心に人気があるのはマンガ原作の実写映画です。『るろうに剣心』をはじめ、『進撃の巨人』、『銀魂』、『亜人』など、次々と人気マンガ作品が実写化されています。参考までに、『ハンガー・ゲーム』が公開された2012年の邦画興収ランキングを見てみましょう。

データ出典:日本映画製作者連盟

上位作品の半分以上がマンガ原作かアニメ作品です。まさに、レッド・オーシャンです。海外のヤングアダルト向け作品にとって、これほど多くの作品がライバルとなっているので、大きなヒットを生むのは至難の業であるといえます。2つ目の理由も、これに関連しています。

2. ハイコンテクストな日本のポップカルチャー

次に、海外作品には国内作品にない目新しさを求めていること。日本は、マンガ、アニメ、ライトノベル(ジュブナイル)などのポップカルチャーが盛んです。
アニメの世界では、女性キャラクターが常に戦っていますが、肉弾、魔法、ロボット、賭け事、スポーツ、架空の武器やルール――とにかく、バリエーションが豊富です。ちょっとやそっとではファンも驚かないので、日本のクリエイターは常に、ユニークな戦い方やモチベーションを考えているのではないでしょうか。

国内では似たようなストーリーやキャラクター(=テンプレート)を好む傾向“テンプレ消費”がありますが、海外の作品に対しては、国内にはない“スケール感”や“目新しさ”を求めているように思います。参考までに、2017年に公開された洋画の国内興収を提示しておきます。

データ出典:日本映画製作者連盟

『ハンガー・ゲーム』も『ワンダーウーマン』も素晴らしい作品ですが、表層的に見れば、日本の若者にとって目新しくない設定の作品といえます。

3.  世界と日本のジェンダー・ギャップ

最後に、日本のジェンダー・ギャップの現状やそれに対する課題意識が国内外で異なること。これは、国内外の熱量に差が生じた大きな要因かもしれません。

日本のエンターテイメントの楽しみ方は、近年はジェンダーレスとなりつつありますが、総じていうと、昔から“男性向け” “女性向け”に分けられている印象です。また、他国に比べ、社会における男女差について個々人が鈍感なのかもしれません。

世界経済フォーラムが、毎年発表している、各国の「ジェンダー・ギャップ指数」にもその傾向が顕著に表れています。「ジェンダー・ギャップ指数」とは、144カ国を対象に、経済、教育、政治、保健の観点からスコアを算出したもので、スコアによって順位付けしています。これによると、2017年度の日本の順位は144カ国中114位で、過去最低となっています。ちなみに、1位はアイスランド、2位はノルウェーと北欧が上位を占め、米国は49位です。

参考:グローバルジェンダーギャップ指数2017を基に作成

日本は、「教育」の順位が高く、「健康」は平均的、「政治参画」と「経済参画」の順位が常に低いことが特徴です。つまり、男女とも健康で教育水準が高い国だが、女性の国会議員や企業の役員は極端に少ないということになります。

『ワンダーウーマン』が全米で大ヒットした背景には、これまでのアメコミファン(男性ファン)だけでなく、女性ファンを獲得したことがあるといわれています。また、一部の評論家によると、全米初の女性大統領の誕生が実現しなかった鬱憤をはらしてくれた作品、という見方もあるようです。それが真実かどうかは別として、これだけ論争が巻き起こった背景には、政治や経済に対して男女問わず多くの個人が関心を持っている事実がありそうです。

国民性の違いと言ってしまえばそれまでですが、先ほどのジェンダー・ギャップ指数の順位を見てしまうと、『ワンダーウーマン』論争に乗り遅れた日本は、何かザンネンな気がしてしまいます。

恋愛映画や、イケメンがワーッとたくさん出て来る映画に癒される女性は多いでしょう。癒しやリフレッシュにはさまざまな方法がありますが、たまには、強い女性ヒーローが周囲をブッ飛ばすのを見てスカッとするのもいいかもしれませんね。

 

(記事:菅ななえ)

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