進化するお化け屋敷~「怖さ」を武器に人の集まる場を構築
(後編:赤坂サカスMRお化け屋敷「コリドール」、八重洲地下街「超ホラーミュージアム」)

毎年夏になると、テレビでは怪談物が放映されるとともに、各所に期間限定の新たなお化け屋敷ができ、話題になります。

今年の夏場の期間限定お化け屋敷として、赤坂サカスと八重洲地下街という場を盛り上げた二つのユニークな取り組みをご紹介したいと思います。

“Magic-Reality :Corridor”

■赤坂サカスの“Magic-Reality: Corridor”(コリドール)

エンターテイメントの世界では先端テクノロジーを活用し、新たな体験価値を提供する試みが盛んですが、お化け屋敷の世界で最も進んだテクノロジー活用の試みの一つといえるのがこちらの体験施設です。

場所は赤坂駅 駅前の夏恒例のイベントとなった「TBSデリカシャス2017」会場内にある屋内コーナー。

体験施設内は床と壁面が緑色に覆われた何もない空間。準備として、HTC製のヘッドフォン付HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装備し、背中にはリュックのようにPCを背負い、片手にはランタン、もう片方の手では同行者とともにリングを握ります。

■どのようなテクノロジーなのか

HMDというとVR(バーチャルリアリティ)という言葉が連想されますが、こちらはMR。Mixed Reality(複合現実)というテクノロジーです。
※因みにこの施設ではMagic Realityと呼んでいます。

VRが現実から遮断された3次元の仮想世界を形作るのに対して、MRは仮想世界に現実世界の情報を取り込み、その二つの世界を融合させた世界を形作るテクノロジーになります。

今回の施設では、HMDに搭載されたカメラを通して自分自身の手足や同行者の身体の映像をリアルタイムで取り込み、ゴシック調の屋敷内という仮想世界の中に自分だけでなく同行者も一緒に入りこんだ世界を映しだしています。

部屋の上部にはHTC VIVEのベースステーションが取り付けられており、部屋内を歩く体験者の位置をトラッキングしています。

■実際の体験内容、演出の特徴

体験コンテンツは5分間ほど。ゴシック調の恐ろしくも美しい室内の廊下を、仮想の魔法陣が指し示す方向を頼りにゆっくりと二人で歩を進めていきます。

近づくと自動で開く扉、飛び掛かってくるクリーチャーやゆっくりと動く霊体。突如響く大きな音。ランタンを照らすと飛び立つ無数のバッタ。

迷路のような部屋を進んでいくとエレベータがあり、上下の仮想的な動きもあります。

従来のお化け屋敷のように、怖さに驚き、逃げ惑うのとは体験性がかなり異なります。綿密に組み立てられたインタラクティブな世界の中に浸って見入ってしまう驚きの体験といったらいいでしょうか。

ゴシック調の恐ろしくも美しい廊下を進んでいきます、右手に持っているのがランタン

エレベータが開くと…

廊下の奥にたたずむ女性はいったい…

■「コリドール」に込められた想い

手掛けたのはTYFFON(ティフォン)社という日本のベンチャー企業。

これまで「ゾンビブース」というスマホアプリを開発し、世界でシリーズ累計3,500万ダウンロードを記録。その後ディズニー社からも出資を受けている注目の企業です。

体験後、この企業の創立者CEOである深澤さんにお話をうかがいました。

TYFFON社 深澤 研CEO

――どういった経緯でこうしたアトラクションを手掛けることになったのでしょうか。

子供の頃からホラーが好きで、中学生の時に描いた最初の油絵は、頭蓋骨のある部屋の絵でした。4-5歳の頃に体験したディスニーランドの「ホーンテッドマンション」のイメージが原体験として強く残っています。

その後学生時代はずっと絵を描くことが好きで、レオナルド・ダ・ヴィンチに憬れていました。大学ではコンピューターサイエンスを学びました。

卒業後、外資系IT会社などを経てフリーランスになった後、ソニー系ベンチャーを経て現在のTYFFONを立ち上げました。その間、3DCGアニメーションなども手掛け、海外の映画祭にも出品していました。

――今回の作品を創る上で、こだわっていること、大事にしていることなどありますか。

これまでのお化け屋敷のように人を驚かせることよりも、自分の好きなホラーテイストの洋風の世界観をベースとした体験を通して、人々の想像力をかきたてることを重視しています。

――人はなぜこうした怖いと感じる体験を自らあえて求めてしまうのだとお考えですか。

人は恐怖という極限の状態に身をおくことで、誰にも訪れるけれど体験しえない「死」への準備をしているといえるのではないでしょうか。

――今後、どのような取り組みを考えていらっしゃいますか。

今回の体験は5分ほどですが、10月にお台場に常設施設TYFFONIUMとしてオープンする時は、10分ほどの長さにしてストーリー性を強め、体験者によって分岐させることを考えています。

スクリーンから空間へとメディアが移っていくこれからの時代において、TYFFONでは最新のテクノロジーを活用し、今までにない体験を提供するテーマパークのような場をつくっていきたいと考えています。

■八重洲地下街に突如現れた「超ホラーミュージアム」

夏休みということでビジネスマンだけでなく、家族連れも行き交う八重洲地下街の昼間。

この通りのちょうど真ん中に位置する「センタースポット」に何やら急に人だかりができ、女性の「キャー!」という悲鳴も時折聞こえます。

超ホラーミュージアム

8/9~8/22というちょうどお盆の前後という期間限定で開催されたこの体験施設。以下の5つのコーナーから構成されていました。

  • フォトブース「OL ゾンビと記念写真!」
  • 展示ゾーン「悪夢の地下研究所」
  • VR「オバケリアVR クリーピング・テラー」
  • 体験「日本一小さいお化け屋敷」
  • 物販「ホラーグッズ販売」

■「超ホラーミュージアム」の特筆点

八重洲地下街という場所柄、最も驚きだったのは最初の「OL ゾンビと記念写真!」です。

ゾンビの特殊メイクをした女性が人通りの多い地下街に佇んでおり、それだけで行き交う人々の注目を集めています。

OL ゾンビ

そして、声掛けすると、その場で気軽に記念撮影に応じてくれるという試みです。

Twitterでハッシュタグ“#ヤベー地下”を検索すると、多数の画像が投稿されていることがわかります。

先に書いた女性の悲鳴の正体は、可動式のイスに座ってHMDを通して楽しむ「オバケリアVR クリーピング・テラー」と「日本一小さいお化け屋敷」です。

このお化け屋敷は数メートル四方のスペースに通路が前後左右にあるもので、中に入ると精巧に作られたオブジェが多数配置されています。

日本一小さいお化け屋敷内

当然お化け屋敷なので、それだけでは済まず、突如恐怖の体験が待ち受けています。

展示ゾーン「悪夢の地下研究所」では実際のお化け屋敷などで使われていそうなゾンビの動くギミックなどが多数展示され、こちらも見物客で賑わいをみせていました。

展示ゾーン「悪夢の地下研究所」

従来のお化け屋敷のように一つの体験アトラクションがあるだけでなく、VR映像コンテンツ、展示コーナー、物販コーナー、撮影コーナーを併設し、SNSとも積極的に連動。

それらをこれまでのお化け屋敷とは最も縁遠い八重洲地下街という日常の場所で実施したことがこの取り組みの特筆点だと思います。

■今回わかったこと

今までハレの場(非日常空間)にしかなかったものが、どんどんケの場(日常空間)に進出し、今までにない体験性を提供してきています。そしてハレの場で人は更なる刺激を求めていきます。
新たなテクノロジーの活用とともに、人々の生活におけるどの時間と空間を組み合わせて新たな体験価値を創造していくか。
ここに今後のエンターテイメントビジネスのヒントがあるように思います。

“Magic-Reality: Corridor”
http://www.tyffon.com/ja/corridor/

TYFFONIUM
http://tyffonium.com/

八重洲地下街「超ホラーミュージアム」
http://obake.red/obakerea-vr-tokyo-station-yaesu-basement/

>>前編はこちら

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(記事:吉田 和也)
(取材協力:中村 健一)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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