コンテンツ東京・特別講演「AI×クリエイティブ」
①松原仁氏講演レポート
~人工知能と創造性~

6月29日、「コンテンツ東京/AI・人工知能EXPO」において行われた特別講演「AI×クリエイティブ」(速報レポートはこちら)。今回はその中から「人工知能と創造性」をテーマにお話しされた松原仁氏(公立はこだて未来大学 副理事長)の講演概要をお届けします。

■コンピュータが創造性を持ち始めている

人工知能の創造性を語る上で、まず押さえておきたいのは、“創造性”という言葉の定義です。何をもって創造性とするのか、創造性とはどのような能力のことを指すのか、実は人間の側が厳密に分かっている訳ではないのです。そんな漠然としたものをコンピュータに持たせることはそもそも難しいことである、というのは分かって頂けると思います。実際、現在に至るまで人工知能(AI)に創造性を持たせる試みは、なかなか上手くいっていません。
しかし可能性を感じさせる例も生まれています。特に「ゲーム領域」においては「AIが創造性を発揮した」といえるような現象が生れてはじめています。
例えば将棋や囲碁の世界では最近相次いでコンピュータがプロ選手に勝っています。ここではプロがみても「創造的な手」をコンピュータが見つけ出しているのです。

この黄色で示した「三七銀」という指し手ですが、これはコンピュータが見つけた手で、その後、プロ棋士が真似して試合に勝ったと言われるほどの手です。将棋という限定された領域ではありますが、コンピュータの創造的な面ができはじめている好例です。
では、どのようにこの創造性のある手は生まれたのでしょうか。将棋でいうと、AIはまず、良いかどうか分からないながらも、指し手の候補をたくさん出します。そしてこの点が大事なのですが、その中から評価して良い指し手だけを選び出します。人間では、これができる人のことを“創造性がある”と言うと思うのですが、コンピュータでは、この“選び出す”というのが非常に難しかったのです。しかし、将棋というゲームは、その指し手は、勝敗に結びつくので、勝てば良い手で負ければ悪い手だということをコンピュータが学習します。つまりゲーム領域でコンピュータの創造性が生れるのは、「ゲームには勝ち負けという明確な評価指針があるから」なのです。

■コンピュータは小説を書けるのか

私は5年前より、コンピュータに小説を書かせる『気まぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ』というプロジェクトをやっています。星新一さんのファンの方であれば、お気づきかと思いますが、このプロジェクト名は星新一さんの『ショートショート』のタイトル2つを借りてきたものです。
そして去年、人間とAIで共同制作した作品を星新一賞に応募したら、その作品が一次審査を通過したのです。これがちょっと話題になりました。
このプロジェクトでは、簡単な文章を書くことはできていたのですが、ストーリーを思いつくという創造性の部分は、まだできていません。先ほど申し上げたように、たくさんの文章の候補は出せるのですが、生成したその“小説もどき”が良いものかどうかを、まだコンピュータが評価できない。残念ながらまだ我々のプロジェクトも評価しているのは人間です。
最終的に「コンピュータが小説を書いた」と言うためには、コンピュータ自体が評価をして、これは良い作品だと判断して出す。それができて初めて、コンピュータが創造したことになると思います。先ほどの将棋などのゲームは「勝ち負け」という明確な基準があるので評価しやすいのですが、良し悪しの明確な基準を決めにくいクリエイティブの領域では、まだこの評価部分が非常にネックになっています。

■心を持ったAIをつくりたい

そして本日のテーマについて話をしたいと思います。まあ『鉄腕アトム』のセリフをたくさん集めて、いかにもアトムが言いそうな会話をするチャットAIのようなシステムであれば、今のAI技術をもってすればすぐにできると思うのですが、今回の『手塚治虫デジタルクローンプロジェクト』がやりたいのはそのずっと先で、手塚治虫さんという“人間の中でも創造性の優れた人間”を模擬するデジタルのシステムを作りたいということです。しかし、手塚治虫クローンで良い作品を生み出そうとする場合、ゲームにおける「勝ち負け」のような分かりやすい評価指針がなく、それがクリエイティブなAIの実現を難しくしています。

『鉄腕アトム』にこんなワンシーンがあります。アトムが人間のように物を美しいと思う気持ちが自分には無いと言ってイジイジしているのです。それを見た御茶ノ水博士は「あきらめなさい」と言うのですが、アトムはあきらめきれません――。こういうことを感じるようなデジタルシステムを作りたい。心を持ったAIをつくりたいと思っています。

そしてアトムのような心をもったAIにはクリエイティブが出来ると思います。現在、人工知能の分野で新しく研究されている「汎用AI」という分野があるのですが、アトムが心を持つためには、汎用AIの登場を待たねばなりません。ただし汎用AIの持つこころ=(良い悪いの)評価指針は、人間のそれとは異なるかもしれません。
AIが将棋や囲碁の手を学習した結果、人間にとって思いもよらない手を生み出したように、AIがクリエイティブ作品を学習した結果、人間にとって思いもよらない感動ストーリーを生み出す可能性もあると思います。
「人間のような心を持ったAI」をつくるのは非常に難しいですが、我々人工知能の研究者としては、いつかはできると思っています。だから誰かが始めなければいけないのです。我々は今回こういうプロジェクトを進めて、是非とも“心を持ったAIづくり”に近づきたいと思っています。ありがとうございました。

次回は、「クリエイティビティの本質と、AIによるイノベーションの鍵」をテーマとした、栗原聡氏(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授/人工知能先端研究センター センター長)の講演概要をお届けします。

■コンテンツ東京・特別講演「AI×クリエイティブ」の関連記事(全4回)
・【第1回】速報レポート ~AIは手塚治虫のような作品を生み出せるのか?~
・【第2回】松原仁氏講演レポート ~人工知能と創造性~
・【第3回】栗原聡氏講演レポート ~クリエイティビティの本質と、AIによるイノベーションの鍵~
・【第4回】山川宏氏講演レポート ~脳型AIと創造性~

*「手塚治虫デジタルクローン」Projectとは…
『アトム ザ・ビギニング』に登場する、アトムを生んだ若き天馬博士とお茶の水博士が所属する研究室「練馬大学 第7研究室」を実際のAI研究者の方々と立上げ、そこでクリエーターの創造活動を支援するクリエイティブAI「手塚治虫デジタルクローン」を開発することを目指すプロジェクトです。
お問い合わせはこちら。
http://www.7ken.org/

*「手塚治虫デジタルクローン」Projectとは…
公正な人間観と価値観を持った手塚治虫さんのデジタルクローンを作成するプロジェクト。クリエーターとAIが協業していく時代に向けて、新しく健全な評価指針づくりを目指す。
お問い合わせはこちら。
http://www.7ken.org/

*NHK総合毎週土曜23時から『アトム ザ・ビギニング』アニメ放映中!
http://atom-tb.com/

*コミックは現在月刊ヒーローズに連載中、単行本6巻発売中!
http://www.heros-web.com/works/atom/

*FRIは『アトム ザ・ビギニング』、「コンテンツ東京 特別講演」、「手塚治虫デジタルクローン」Projectを応援しています。

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