「ゼロ年代からテン年代へ」~エンタメ潮流はどう変わったのか?<第2回>さやわかさんインタビュー 前編:2010年代前半のエンタメトレンドまとめ

FRIでは、“2011~2015年のエンタメ潮流”について研究し、その内容を基に有識者にインタビューを行っています。今回は第二弾として、ライター・評論家で『一〇年代文化論』などの著者であるさやわかさんに、お話を伺いました。2011年(震災年)~2015年を語る上で欠かせない “代表的な潮流(トレンド)” について、前後編の2回にわたりお届けして行きます。

※事前にFRIの分析結果をお渡しし、それを踏まえて横断的な潮流についてお話し頂きました。

■トレンド整理のための3視点 「ビジネス」 「表現」 「社会反映」

さやわかさんが横断的に潮流を整理する際に、「ビジネス」「表現」「社会反映」3つの視点を用いるそうです。
「表現トレンド」や「社会反映的トレンド」は評論や批評において強く意識される視点ですが、これに「ビジネス的トレンド」を追加して文脈を捉えているとのこと。
2011~2015年のビジネス的トレンドといえば、“コト消費”や“コミュニケーション消費”などの消費傾向がありますが、これに加え、“男性オタクから女性オタクへ”という流れもエンタメにおいては重要であると、さやわかさんは言います。

前編では、「ビジネス視点」の中でも“女性オタク層”に注目しつつ、「表現トレンド」の全体像を振り返って行きます。

■男性オタクから女性オタクへ

菅:
2011~2015年における“女性オタク”とは、具体的にどのような人たちなのでしょうか。

さやわか:
オタクといっても、もう少しライトな層というか。熱心に作品をフォローしてくれるような人達です。昔のオタクは求道的でしたが、それとは違う、言葉を選ばずに言えば “ミーハー”でしょうか。ものすごいスピードでハマる作品が変わって行く。熱狂的というか、常に何かにハマっていたいというオタク像。2011年の『TIGER & BUNNY』のパブリックビューイングがあって、最近流行った『キンプリ(KING OF PRISM)』の応援上映までつながっていく。女性向けコンテンツは確実に“コト消費”に向かっているので、『TIGER & BUNNY』は重要なタイトルだったと思います。

菅:
女性向けといえば、少女マンガ原作の映画が増えましたね。

さやわか:
個人的に『orange-オレンジ-』には注目していました。興収も30億円超えで、『進撃の巨人(ATTACK ON TITAN)』より良かった。製作費も比較的安価なので、こういった作品は今後も継続的につくられると思います。マンガ原作の映画が増えた背景には、間違いなく「女性向け」がありますね。

ほかにも、『刀剣乱舞』の人気で、日本刀などを所蔵する名古屋の徳川美術館に女性来場者が増えたり、ゲームとは関係のない源氏物語の絵巻物が売れてしまったりと。女性ファンは、とても行動的ですよね。

左画像引用:TIGER & BUNNY(サンライズ)、 右画像引用:刀剣乱舞(DMM GAMES)

■ 2011~2015年 3つの表現トレンド “3D” “なろう系” “短時間消費”

ここからは、表現トレンド “3D” “なろう系*” “短時間”の3つの文脈で振り返って行きます。

*なろう系:小説などにおけるファンタジージャンル。「現実世界では平凡な主人公が、異世界に行って活躍する」という内容。Webの小説投稿サイト『小説家になろう』に多いジャンルであることから“なろう系”と呼ばれる。

1) 2Dから3Dへ

さやわか:
2011年以降、2Dから3Dへの傾向が増えました。最近ではTPS(サードパーソンシューティング)ではありますが、『スプラトゥーン』などの3D空間ゲームが国内でも流行りました。3D空間で誰かと一緒にプレイするゲームは、国内ではエポックメイキングであるといえます。

2011年に発売されたゲーム『DARK SOULS』も重要なタイトルです。まず、日本人がこれまであまりやらなかった3D空間のゲーム、つまり欧米と戦えるものを作っています。海外ではこれに似たゲームが増えていて、内容もすごく難しい。若年層が簡単に遊べるものではなく、ゲームをやって来た人に売れるかということをきちんと考えているゲームです。

左画像引用:Splatoon <スプラトゥーン>(任天堂)、 右画像引用:DARK SOULS(フロム・ソフトウェア)

それから、“2.5次元”ミュージカルも3Dへの動きであり、平面上にあったものを3Dへ移行させようという努力だったと思います。ルーツをたどると、“コスプレ”や“聖地巡礼”などもありますが、これらは平面にあったものを何とか3次元で体験したいという欲求の表れだと思います。

2)“日常系”から“なろう系”へ

さやわか:
ここでいう“なろう系”とは、主人公が万能感のある小説などですね。80年代の反復ではあるのですが、強い自分を求めていたように思います。こういったものが改めて流行った背景には、ハブとなる作品があったからだと思います。僕の持論ですが、それは『ハリー・ポッター』ではないかと。
但し、西洋的なハイファンタジーではなく、日本人の考えるファンタジー世界に飛び込んでいく。『ドラゴン・クエスト』からの流れにあるゲーム的なファンタジー世界に書き換えているわけですね。

菅:
“ループもの”も、ゲーム的な文脈を含んでいるのでしょうか。

さやわか:
ゲーム的ファンタジー世界では、死んでも生き返るというループに近い考え方が色濃くありますね。あとは、メタ視点も特徴です。“なろう系”の主人公は、ここはゲームなのだ、という認識を持ち、どうやって攻略して行こうか考えるのですね。 “ループ”については「社会反映的トレンド」(後編)でもう少しお話しします。

3)短時間消費コンテンツ

菅:
2013年に、朝ドラ『あまちゃん』が話題になりましたが、“アイドル”や“震災”といった作品テーマだけでなく、“毎朝の15分”というのが時代に合っていた印象ですよね。

さやわか:
そうですね。朝に習慣づけて15分見れば、「皆と話題を共有できる何か」になる。朝の連続ドラマ、アニメもそうですし、特にスマホゲームは、基本的に電車の中でできるよう、1セッションが5~10分で終わるようになっていますよね。アニメは、体験者が長時間のコンテンツを見ることに耐えられなくなって来たことと、製作側も30分アニメを製作することが厳しいという背景もあります。また、4コママンガ原作のアニメが増えたこともあり、30分でやる必要はないということに気づいたところはあるかもしれません。

マンガも、スマホ上で、短時間で読めるウェブ漫画が中心となって来ていて、マンガ雑誌が文芸誌みたいになってしまっていますね。とにかく、2011年以降、ネット対応のコンテンツが中心となりました。ネット上で長時間コンテンツを見ることはないのですよね。だからこそ、短時間になって行ったのだと思います。

後編では、「社会反映的トレンド」を中心に2011~2015年の社会状況を反映した作品について伺って行きます。

>>後編へ続く

さやわか
ライター、評論家、まんが原作者。『ユリイカ』『クイック・ジャパン』ほかで執筆。『AERA』『ダ・ヴィンチ』『ビッグガンガン』ほかで連載。小説、漫画、アニメ、音楽、映画、演劇、ネットなどについて幅広く評論。著書に『僕たちのゲーム史』『一〇年代文化論』など多数。

■インタビュアー

菅 ななえ
フィールズ株式会社研究開発室(フィールズ総研)勤務。

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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