渋谷ストーリー Vol.12 道玄坂

円山町の廃屋。昔は何かの店だったような作りだ。しかし取り壊されもせず、立ち入り禁止の立て札だけで放置されているのは、きっと余人の計り知れない複雑な事情があるのだろう。この家を訪れた人たちは、どんな人たちだったのだろう。木造の家は、崩れても人の息吹を感じさせる。

道玄坂地蔵と呼ばれる、火伏地蔵。円山町はもとは料亭が多く、また最近では様々な事件ともかかわりが深い。こんなクラシックなお地蔵さまも、きれいに整備されて祭られている。そのきれいさゆえに、人の祈りが深いことを感じる。

坂の上近く。ぽっかりと空が見える。どこかの住宅地のようだが、道玄坂からわずか数百メートルのところだ。町が大きく息をついたように感じる空に、自分も深呼吸をしていた。

円山町にある普通の住宅。しかも古い。漆喰とすすけた玄関灯が時代を物語る。実はここは、こんな普通の住宅地だったのか。
街は幾層にも重なってできているのかもしれない。そして埋もれてしまった時代の層が、時折、現れるところがある。太古の化石をさらす露頭のように。しかし、化石ではなく、埋もれた時代も、今のシブヤにひっそりと染みわたって生きていることを、こんな軒先に感じることが出来る。

店のサインは楽しい。カニであったり、牛であったり、そしてはたまた、ハリセンボンであったり。しかし、このサインは、妙にリアリティがある造形だ。まるで理科の標本のように。

ここは普通の街なんだ。いや、街ではなく、町。そして町内会で、様々な情報が共有され、イベントが織紡がれていく。この掲示板を見る人がいることが、この町が確かに生きているあかしなのだろう。

(写真:瀬尾 太一)

[ Japacon× FIELDS Research Institute ]

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です