渋谷ストーリー Vol.11 道玄坂

小さな小さな公園。鉄棒が一本、ぽつりと設置されている。そして向こう側には、相当な年数を重ねた戸建ての住宅。この辺りが、シブヤの本当の日常なのかもしれない。屋根の上に作られたベランダで、誰が鉢植えに水をやるのだろうか。

シブヤの路地で、まず目につくのは電線の複雑さだ。しかも低く、各建物に引き入れられていく。これがなくなったら、街路の風景は一変するだろう。しかし、見る人は、何がなくなったか、気づかないかもしれない不思議な存在。運んでいるのは本当に電気だけなのだろうか。

道玄坂のあいまい見える高層建築。これで見ると、まだ道玄坂近辺は高層建築が立ち並んでいるわけではないことがわかるだろう。町の建築の構成は、新宿というより、実は浅草に近いのではないか。おしゃれな街シブヤの見る夢は、実はノスタルジックな昭和なのかもしれない。

道玄坂の中ほどにある交差点。木々が茂っているのが最もよくわかる場所のひとつだ。しかしこの木々がどんどん育っていて、大きなアーチを作るころ、ここは繁華な土地であるのだろうか。それとも木々は間引かれてしまうのか。1964年の東京オリンピックで東京は大きく変わった。2020年のオリンピックが、この木々を失うきっかけにならないことを祈るばかりだ。

道玄坂中ほど、道の向こうから与謝野晶子歌碑を望む。きれいに整備されたランドマークに、誰も振り返ることがない。もう一度ここを文化の中心に。鉄幹、晶子が存命なら、そんなことを思ったのではないだろうか。

円山町は大中小、様々なホテルで埋め尽くされている。需要と供給のバランスがとれているとすると、やはり東京は人の渦であふれかえっているのだろう。そして、その中で、一人一人の寂しい思いや切ない夢が交錯して、小さな部屋に逃げ込んでいく。ここは誰もふれずにそっと置いておく、隠れ家の町。

(写真:瀬尾 太一)

[ Japacon× FIELDS Research Institute ]

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