メインヒロインを差し置いて人気になった『リゼロ』の「レム」。その理由とは

2016年…全くの無名ライトノベルが、アニメ化を経て、『このライトノベルがすごい!』の第2位にランクインしました。その作品とは、『Re:ゼロから始める異世界生活』。通称『リゼロ』です。
この作品の魅力の1つが、圧倒的に人気を誇るサブヒロイン「レム」の存在です。なぜ、メインヒロインの「エミリア」ではなく、「レム」があれだけ人気になったのか。主人公スバルのヒーロー性からそれを紐解いていこうと思います。

画像引用:Re:ゼロから始める異世界生活

長月達平・株式会社KADOKAWA刊/ Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会)

■特殊能力を持つが強くないヒーロー

さて、この作品の主人公『ナツキ・スバル』はどんなヒーローなのでしょうか。元々は、現代日本に生きる、不登校で中二病の18歳です。そんなスバルがある日、剣と魔法の異世界に飛ばされてしまい、1つ能力が与えられます。その能力とは、「自分が死んでしまうと、死んだ時点の記憶を自分だけ継承したまま、ある地点まで時間が戻る。」というものです。こう聞くと、強そうなヒーローだと思われるでしょうか?しかし、考えてみて下さい。剣と魔法の世界で、過去に戻れるだけの普通の人間が、何か出来るのでしょうか。強い魔法使いに殺されて過去に戻っても、その敵を倒す手段は自分にはないのです。
しかし、彼は諦めません。倒せないのであればその敵から逃げる方法はないのか、誰か倒せる人を仲間に出来ないか、その人を仲間にするにはどうすれば良いか…必死に考え、何度もトライし続けます。敵を自ら倒すことは出来なくても、必死に何かを考える。この諦めない姿こそが、彼の「強さ」であり、彼がヒーローたる理由なのです。

■プロセスが評価されるヒーロー

典型的なアニメ・マンガの世界のヒーローは、現実ではありえない強い能力を持ち、その力で、時に単純に困難を切り抜けます。そこには、やはりフィクション性を感じる部分があります。一方、このスバルの頑張る姿は、能力とはあまり関係がありません。むしろ、彼のその悩む姿と、結果へ向けて努力するプロセスは、現実世界で起きることにも通じるものが大きいと感じます。
ここで、スバルのヒーロー性を当社のヒーローデータベース(※)に照らすと、「バラク・オバマ」の名前が出てきました。理想的な改革には至らなかった部分も多いオバマ元大統領ですが、就任当初の「諦めずに何かをやり遂げる」とする姿は印象的だったと思います。また、オバマのヒーロー的特徴を見ると、カリスマ性が突出しているのが目につきます。当初は普通の高校生だったスバルも、困難に立ち向かい続けているうちに、仲間から信頼され、様々な国家からも支持されていくようになります。この様に、カリスマ性を獲得していく姿もオバマと通じるところがあります。
即ちこの物語は、一般的な高校生であるスバルが、オバマの様に困難に向かい、(当初、彼が目指していたように)諦めずに努力し続ける物語だと捉えることが出来ます。

■スバルとレムの社会的意義

加えて、この作品のもう一つの特徴は、その努力しているプロセスを仲間が知りえないということです。努力し続けても、失敗してしまうとその記憶はスバル以外の中からは消えてしまう。他人から見れば、成功した時の記憶しか残っていないのです。それは、「どれだけ努力しても結果でしか評価されない」ということを示しているのかもしれません。しかし、視聴者はその全てのルートの記憶を共有しています。視聴者が唯一記憶を共有している存在になるため、彼の努力する姿と報われない姿に共感し、心を揺さぶられるのです。
さて、最後に、お待ちかね「レム」の登場です。サブヒロインでありながら、メインヒロイン「エミリア」を差し置いて人気になったキャラクター。では、なぜ、彼女が愛されたのか。それは、レムがスバルの努力しているプロセスを記憶していないにも関わらず、スバルのことを信じ続けるからだと思います。メインヒロインのエミリア含め、誰もが努力を評価してくれない中で、唯一スバルのことを信じ続けてくれる。
即ち、「どれだけ努力しても結果でしか評価されない」社会において、レムだけが、その努力を信じ評価してくれる存在なのです。この部分が、彼女が視聴者にこれだけ愛されている理由だと思います。そして、彼女の様な存在を、この作品の視聴者層である若者が求めているということが分かります。
以上から、今の若者は、結果ではなく努力しているプロセスを評価して欲しい、誰かに見ていて欲しいという欲求が強いのではないかと思います。この作品のヒットとレムの人気の背景には、この様な若者の心理があるのです。

(記事:K.Kimura)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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