ザ・インタビュー 赤松健先生 -後編-

Fields × JAPACON “Contents & Human Future Lab.では、漫画家の先生のヒーロー像を毎月おひとりずつインタビューしていく予定です。
このインタビューでは、作家の皆さんの成り立ちや作品に対する想いを、ヒーロー、ヒロインという言葉をキーワードにしてお伺いしていきます。

スペシャル・ヒーロー・シリーズ、今回は赤松健先生をお迎えしてお話を伺います。
赤松先生は、デビュー以来25年間、常にヒット作を世に送り出している稀有の漫画家です。今回は、ヒットを生み出し続ける先生の秘策に迫ります。

■赤松流漫画論

瀬尾:
漫画は、時代と共に変化していますね。行き着くところはどこでしょう。

赤松先生:
悟空は次々と登場する強いものに興味を持ちます。ゴールはないかもしれません。一方、ルフィは最初から「海賊になる」と言っていますからそれがゴールでしょうね。

瀬尾:
しかし、実際の人間はもっと複雑ですよね。

赤松先生:
私はシンプルなものが好きです。スター・ウォーズのルークはシンプルですよね。シンプルなストーリーは世界的に受け入れられています。日常がどろどろしているので、漫画はシンプルであって欲しいと思うのが読者の心情でしょう。漫画の編集者もそう思っています。

瀬尾:
私は、スターウォーズのハン・ソロが好きです。より実在の人間に近いですよね。

赤松先生:
世界的には、ハン・ソロの方が人気がありますよ。でも漫画では、シンプルさが求められます。

瀬尾:
最新作ではヒーローをどのように描かれたのですか。

赤松先生:
「ラブひな」、「ネギま!」までは良かった。漫画界でヒット作を3本続けて描いた漫画家は非常に少ないのです。私が思いつくのは高橋留美子先生、お一人ですね。2作ヒットを続けても、3本目のヒット作までには間があくのです。私が考える3本目がヒットしない理由は、3本目に違うものを描くと読者は落胆するし、1・2作目をそのまま踏襲すると飽きられます。3作目をヒットさせるには、前作のキャラクターを登場させ、異なる種類の漫画に取り組む必要があると思っています。

瀬尾:
それは、外伝的な漫画でしょうか。

赤松先生:
そうです。ヒット漫画、「GTO」は「湘南純愛組」の外伝と言えます。読者の落胆と倦怠の双方を避けることができる良い方法なのです。私は48歳になりました。読者の少年の気持ちはわからなくなっています。デビュー直後の20代前半の頃は、少年の気持ちがわかりましたし、少年の圧倒的な支持を得る漫画を描くことができました。今の私にはできませんし、逆にできたら変ですよね。そこで王道のヒーローに戻りました。スーパーヒットではありませんが、来年のアニメ化が決定しました。

■プロとして

瀬尾:
先生はデビューから25年間売れ続けています。これは稀有のことではありませんか。

赤松先生:
まれだと思います。

瀬尾:
その偉業をなしえたのは、時代を見据えていたからですか。

赤松先生:
読者の求める漫画と作者が描きたい漫画は違います。読者を楽しませるためにはどうすべきかを考える必要があります。私は、大人の女性、いわゆる熟女を描いてみたいと思っていますが、少年には受け入れられませんよね。

瀬尾:
プロフェッショナルの仕事の仕方ですね。自分の作品がどれだけ世の中に受け入れられるかを考えている。

赤松先生:
海のものを山で、山のものを海で売る発想です。美少女ものが少ない漫画雑誌で美少女ものを描くことがこれに当てはまります。もう一つは、一部にしか受け入れられていないネタを3年後に描くという方法ですね。3作目は失敗しない方法では前作のキャラクターを登場させる方法を選びました。

瀬尾:
先生の次の作品が楽しみです。

赤松先生:
26年目の挑戦ですか。一つのヒット漫画を20~30年描き続ける作家はいるのですが、作品を変えながら20~30年漫画を描き続けられる作家は少ないですよね。

瀬尾:
それはマーケティングの成果でしょうか。先生は、マーケティングを取り入れた初めての漫画家の先生ですね。

赤松先生:
そうかもしれません。編集者やエイジェントがすることを私が兼務しています。漫画好き、絵がうまいだけが漫画家としての成功を約束するわけではありません。

■ヒーローとは

瀬尾:
今までインタビューしてきた先生方にヒーロー像を伺うと、平凡な人、あるいは欠点の多い人たちがヒーローになるとおっしゃっていました。

赤松先生:
それは、今までインタビューされていた先生方が非凡だったからでしょう。平凡な人々にとって、非凡な先生方の日常は平凡ではありません。

瀬尾:
赤松先生自身がヒーローなのでしょう。才能がないと公言しながら、25年間売れ続けているのですから。

赤松先生:
私は自身を秀才型と思っています。天才にあこがれるけど、天才にはなれません。一人の天才が成功の陰には10人の天才が埋もれています。それは嫌なのです。皆で頑張って、皆で成功しようというほうが好きですね。天才の「いつか夢はかなう」というアドバイスは凡人には参考にはなりません。私の持論は、「モラトリアム中(学校卒業前)にラッキーパンチを狙え」です。学校卒業後に漫画家を目指す人たちは、まとまった漫画を描きますが、面白みに欠ける場合が多いように思います。

瀬尾:
そうかもしれませんね。

赤松先生:
ヒーローに話を戻すと、私の描くヒーローは受け入れられるヒーローの要素を取り入れます。今までにない型破りなヒーローを描こうとしているわけではありません。

瀬尾:
写真家として多くの写真家の作品を見ていますが、年齢が上がれば技術は上がります。でも、30代の頃の写真がエネルギーにあふれている場合は多いです。先生のお話にも通じる気がするのですが、いかがですか。

赤松先生:
漫画家にもそれは当てはまりますね。型破りでエネルギーにあふれる作品は、漫画家が30才頃に描かれる作品が多いと思います。「進撃の巨人」は好例でしょう。私は彼の次回作を楽しみにしています。

■編集後記
先生のスタジオにインタビューに伺いました。白い壁に白い床、まるでお城のようなスタジオの椅子に座る先生は、王子様・・・のはずでした。しかし、実際の先生は、率直で、飾らない、親しみやすい方です。ご自身では、少年の気持ちはわからないとおっしゃっていましたが、若者オーラを発散させる少年に近い存在とお見受けしました。と、同時に、冷静に世の中の動き、読者の心情を分析し、読者を楽しませようというまさにエンターテーナーでもいらっしゃいます。「好き」と「プロフェッショナル」、「大人」と「少年」をバランス良く持ち合わせていらっしゃる先生は、やはり稀有の才能の持ち主です。

前編はこちら

■インタビュアー紹介

瀬尾太一
コンテンンツ・ポータルサイト運営協議会(JAPACON)統括主査。写真家。日本写真著作権協会常務理事、日本複製権センター副理事長などを務める。クリエーターをはじめ、幅広いジャンルの方々と交流を持つ。

小室つぐみ
フィールズ株式会社研究開発室(フィールズ総研)勤務。

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