ザ・インタビュー 赤松健先生 -前編-

Fields × JAPACON “Contents & Human Future Lab.では、漫画家の先生のヒーロー像を毎月おひとりずつインタビューしていく予定です。
このインタビューでは、作家の皆さんの成り立ちや作品に対する想いを、ヒーロー、ヒロインという言葉をキーワードにしてお伺いしていきます。

スペシャル・ヒーロー・シリーズ、今回は赤松健先生をお迎えしてお話を伺います。
赤松先生は、デビュー以来25年間、常にヒット作を世に送り出している稀有の漫画家です。今回は、ヒットを生み出し続ける先生の秘策に迫ります。

 

■漫画家になったきっかけ

小室:
本日はご多忙の中、私たちのインタビューをお引き受けくださいましてありがとうございました。ヒット作を連発されている先生にお会いできて大変うれしく思っています。はじめに、先生が漫画家を志されたきっかけを教えていただけますか?

赤松先生:
出身大学は中央大学です。大学時代は、アニメ、漫画、映画の研究会に所属していました。
その3つのジャンルの中で、少ない投資で大きいリターンを得られるのが漫画でした。そこで、私は漫画を選びました。漫画を本格的に書くようになったのは大学生になってからです。

瀬尾:
今まで、インタビューしてきた先生方は、小学生、中学生から漫画を描いていた方が多かったのですが、先生は違うのですね。

赤松先生:
幼いころから漫画が好きで、漫画がうまい人はいますが、大成する人は少ないように思います。なぜなら、彼らはうまいことを自認していて、編集者のアドバイスをあまり聞かないことが多いのです。私は漫画がうまいと思っていないので、アドバイスをすぐ受け入れることができました。他の漫画家の画風を取り入れることもできました。在学中、卒業論文と新人賞受賞作を同時に仕上げ、週刊誌連載の契約を獲得したので、両親も漫画家になることを賛成してくれました。

瀬尾:
新人賞を受賞した漫画家でも成功する人は少ないのですよね。

赤松先生:
その通りです。しかし、コミケでそれなりの利益を上げることはできます。私は、エンターテイメントには携わりたいと思っていました。日本大学芸術学部の映画学科、監督コースも受験しました。十倍以上の一次試験をパスしたものの、二次試験の面接で「ビジネス的に成功する映画が好き」と答えて、「君はプロデューサーコース向きだね」と言われました。不合格になりました。失敗です。(笑)

瀬尾:
なるほど。エンターテイメントの中で、成功できる可能性が高く、最適と先生が判断したものが漫画なのですね。

赤松先生:
そうですね。それに、漫画を原作としてアニメや映画ができる。

■ヒットを作るために

瀬尾:
長続きしない漫画家はたくさんいますよね。それはどうしてだと思われますか。

赤松先生:
好きなものを描いているとどうしても行き詰ります。受け入れられるものを提供することが大切です。好きでなくては続かないところもありますけどね。
私は、将来を予想して作品を描いています。例えば、株の取引をしている人はアメリカ株の値動きを見て、明日の日本株の動きの予測が立つ。それと一緒です。一部で受け入れられている流行が約3~5年後には一般的な流行となるとみています。例えば、大ヒット作のエヴァンゲリオンも最初は一部の人だけに受け入れられていましたよね。
ストーリーとしては、1990年代ラブコメと言えば三角関係でした。その後、美少女の登場人物が増えていく風潮でした。いわゆるモテモテ男子の登場です。

瀬尾:
モテモテ男子は、普通の男性の願望ですよね。

赤松先生:
そうです。おタクの願望かもしれませんね。そこで美少女いっぱい、モテモテ男子の漫画を描くことにしました。私が連載を持っている少年マガジンにはないタイプの漫画でした。
この漫画は、ハリーポッターの主役、少年時代のダニエル・ラドクリフ君が来日した時に、年上の女性が熱狂していることにヒントを得ました。そのころ、私は漫画の登場人物の男性が中性化、モノ化していると感じていました。

瀬尾:
もしかしたら、主人公の少年はおタクの願望を実現するおタクのヒーローですか。

赤松先生:
そうかもしれませんね。その後2000年前後に男性が登場しなくなります。「けいおん」という漫画には男性が登場しませんよね。美少女の中に入っている自分を少年が想像するパターンです。女の子になりたい願望がおタクの少年にはあるのです。小説には男性が女性に変わるものもありますよね。女性に変わることで自分の好きな女の子たちと戯れることができます。美少女いっぱいの「ネギま!」のクラスメート31名。それぞれ一貫した性格を持っています。「ネギま!」の曲は200曲もあり、CDも出ました。10か月連続ベスト10入りしたもののあります。幕張メッセで声優さんのコンサートを開き、5,000名集まった時は、まさに漫画発のエンターテイメントのゴールと思いました。

小室:
10か月のロングヒットなんて珍しいですよね。

■ヒーローへの回帰とAKB

赤松先生:
その次に取り組んだテーマがヒーローもの、少年漫画の原点です。少年漫画の王道のバトル・ヒーローたちは女性にはあまり興味がありません。悟空やルフィがこれに当てはまります。ルフィは女性より友情が大事ですよね。私もその王道のヒーローを描きました。漫画家であるからには描きたかったのです。

瀬尾:
ヒーローが変遷しているだけかもしれませんね。

赤松先生:
それはきれいな見方です。おタクの女性化願望、女の子に変わった自分が女の子となかよくしたい。かわいい者をずっと観察したいというのはキモイですよね。

瀬尾:
でも、読者は受け入れ、感情移入できたのですよね。読者の心の中のおタクを先生が代弁していたように感じます。

赤松先生:
そうかもしれません。しかし、時代を超えて広く受け入れられているのはヒーローものです。

瀬尾:
そういえば、アラレちゃんよりドラゴン・ボールの方が長期にわたって人気がありますね。

赤松先生:
ヒーローは基本的に足すか、掛けるかしかありません。男性は常に最強でありたい。男性は「すごいね」と言われたい。女性は引き算も割り算もありです。「大変だったね」と言われたいのでしょうね。

小室:
先生は女性をどのように描くのですか。

赤松先生:
「ネギま!」の時は、人気投票をして、一位の少女をセンターにしました。私の漫画が、AKB方式の原点です。「ネギま!」をドラマ化した際のディレクターがAKBの所属レコード会社の社員で、この方法をAKBに取り入れたのです。

瀬尾:
AKB方式の始まりは先生の漫画にありですね。アイドルといえば、30年くらい前まで、1人、多くても2~3人でした。今は数十名。いわば匿名性の高いアイドルとも言えますね。一人一人の区別がつかないですね。

赤松先生:
大人数アイドルの走りは、「モーニング娘。」でした。最初はメンバーの区別がつかなかったのですが、そのうちお気に入りのメンバーが見つかります。
「ネギま!」も同様です。最初は31人の区別がつきませんが、20巻くらいまで読み進むと区別がつくようになります。31名の性格や口調は1巻からぶれていません。アイドルもキャラクターや集団の中の役割が決まっていますよね。

■編集後記
先生のスタジオにインタビューに伺いました。白い壁に白い床、まるでお城のようなスタジオの椅子に座る先生は、王子様・・・のはずでした。しかし、実際の先生は、率直で、飾らない、親しみやすい方です。ご自身では、少年の気持ちはわからないとおっしゃっていましたが、若者オーラを発散させる少年に近い存在とお見受けしました。と、同時に、冷静に世の中の動き、読者の心情を分析し、読者を楽しませようというまさにエンターテーナーでもいらっしゃいます。「好き」と「プロフェッショナル」、「大人」と「少年」をバランス良く持ち合わせていらっしゃる先生は、やはり稀有の才能の持ち主です。

後編へ続く

■インタビュアー紹介

瀬尾太一
コンテンンツ・ポータルサイト運営協議会(JAPACON)統括主査。写真家。日本写真著作権協会常務理事、日本複製権センター副理事長などを務める。クリエーターをはじめ、幅広いジャンルの方々と交流を持つ。

小室つぐみ
フィールズ株式会社研究開発室(フィールズ総研)勤務。

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