『食神(たべがみ)さまの不思議なレストラン』-デジタルアートで和を食す-

-巨大な茶碗のお米を両手いっぱいに掬ってみる…… すると光たちが寄ってくる、食神さまがいるのだろうか-
現在、日本橋茅場町の特設会場で開催されているのが『食神さまの不思議なレストラン』展です。日本の食文化をテーマにした展覧会に見る、デジタルアートの新潮流をレポートします。

■「四季の谷」 狐の“ウカ”が誘ってくれる!

日本橋茅場町の路地裏、現在空きビルとなっているビルを会場に今回のデジタルアート展は行われている。「世界から見た和食を通じて日本の食文化を知る」がコンセプトだと言う。

「四季の谷」

受付を抜け、階段を上がると、最初のフロア「四季の谷」に入る。両側に竹林を投影したスクリーンが幾重にも並んでいて、その幻想的な空間を通り抜けていくだけで、「おとぎ話」の世界に紛れ込んだかのような気持ちになる。
一番奥には一面に山林が描かれた巨大なスクリーンが現れる。そのスクリーンに手をかざすとその場所が光ったり、灯篭が灯ったりする。そして陰に隠れた狐を見つけると、“ウカ”(※1)と名付けられた狐が登場する。そのウカに手をかざすと、春から夏へ、夏から秋へと、次の季節に連れて行ってくれる。広い画面上に隠れたウカを見つけては、季節が変わっていくのが実にワクワク感がある。

手をかざすと光が宿る(季節は春)

隠れている狐を見つけて手をかざす

狐のウカ

ウカがいろんな季節へ連れて行ってくれる

夏 → 秋 → 冬

今回の展覧会について、仕掛け人の一人、プロデューサーの鈴木智彦さんに話を聞いた。「2015年に北大路 魯山人の展覧会をプロデュースしました。その際、“食”についての展示にデジタルアートを使ったところ、とても面白いものとなりました。自分たちが普段慣れ親しんでいる“和食”を、デジタルアートという最新の技術で表現すれば、これまでにない視点で“和食”が見えてくるのではないか。」そう考えたのが、今回のプロジェクトのきっかけだと言う。さらに和食が日本以上に海外で注目されているという思いも後押しになったと言う。
今回の『食神さまの不思議なレストラン』では、“和食とは何か”を考える上で、欠かせない幾つかの要素を表現しているそうだが、最初のフロアでは和食を形作った日本の“四季”を表現したと鈴木さんは語る。

プロデューサー 鈴木智彦さん

■「4Ways 」-和食の社「Sanctuary」

次のフロアが「4Ways」という名づけられた空間で、四方にスクリーンがあり、和食を作る手法である「煮」「焼」「蒸」「揚」という漢字が立体的に浮かび上がっている。それぞれの漢字に近づくと、湾曲したりと変化が起こる。
前述の鈴木さんによると、スクリーンは7層になっていて、立体的な表現を可能にしている。さらに部屋中にボディセンサーが取り付けてあり、来場者の体の動きを察知して反応が起きるインタラクティブなアートになっていると言う。

「4Ways」

「揚」の文字が浮き上がっている

「4Ways 」の次に来るのが、和食の社「Sanctuary」と名付けられた空間だ。
半円形のブースに、竹の照明が並べられており、壁には4つのスクリーンが並んでいる。それぞれに和食には欠かせない「発酵」「道具」「酒」「出汁」という4つの要素が映し出されている。スクリーンの前に手をかざすと「利休箸」「茶碗」「土鍋」「醤油」「味噌」など、様々なものが説明書きと共に浮かび上がってくる。それぞれの歴史や成り立ちなど和食のことなのに知らないことばかりだ。

和食の社「Sanctuary」

和食の道具

手をかざすと光が実によく動く、まるで触っているような感覚を覚える

鈴木さんの依頼により、この度のデジタルアートを制作したのが、モントリオールのクリエイティブ集団「モーメント・ファクトリー」だ。バルセロナのサグラダ・ファミリア大聖堂、シルク・ドゥ・ソレイユなど350件以上のショーや体験型イベントを手掛け、プロジェクションマッピング(※2)やシノグラフィー(※3)などの技術において、世界最高峰との呼び声もあるそうだ。今回の展覧会が「モーメント・ファクトリー」の初来日作品となる。
2015年の末に、交渉をはじめ、何度もディスカッションを重ねて作り込まれたと言う。その際、鈴木さんが一番大事にしたのが「あくまでも外国人からみた」という視点だと言う。確かに和食を表現するうえで、漢字や道具に強くスポットを当てているのは、外国人視点らしいという印象を受けた。

■「米との対話」-そして森を抜けて…

続いて入るフロア、「米との対話」と名付けられた空間には、巨大な茶碗が置いてある。中には山盛りのお米だ。お米の中に両手を入れると、常に目にしているものなのに、冷たくて気持ち良いものなのだと新鮮な驚きがある。それを掬い上げると、光がさっと寄ってくる。
等高線のような模様になったり、緑色になったりといろんな変化を見せる。自分の動きに合わせて生き物の様に動く光の渦に、なにか神秘的な雰囲気が漂う。

「米との対話」

両手で掬ったお米

鈴木さんによると、モチーフになっているのは古事記。そこにはたくさんの原始的な神様が登場するが、古事記に登場する食べ物の神様を表現したかったと言う。
狐ウカの名前も、五穀豊穣の女神「ウカノミタマ」から来ていると言う。
全体のストーリーとしては、こんな感じだ。来場者は五穀豊穣の神様の使いであるキツネに化かされて、神々の住む森へと迷いこみ、四季や和食づくりの流れを光の幻想で見せられる。
そして最後に辿りつくのが、「神さまのレストラン」だ。

「神さまのレストラン」

レストランのフロアには「お出汁」の香りが漂っている。来場者全員に「おいなりさん」が配られるが、他にも著名な料理人による和食メニューを注文することができる。
筆者も試食させていただき、どれも美味だが、個人的なおススメは「出汁巻」だ。山椒の香りがとても良い。

今回の展示会では、インタラクティブなデジタルアートで、視覚、聴覚、触覚を刺激され、さらにレストランで味覚、嗅覚まで満たされる。鈴木さんによれば、目指したのは「身体性」による総合芸術だという。“見る”“見られる”の関係ではなく、制作者も来場者も一緒に参加することで完成するアートなのだ。

神様のおいなりさん(入場券1枚につき1個ついている)

実山椒をきかせた 親子出汁巻

出汁香る 稲庭うどん

■エピローグ

来場者に話を聞いてみたが、「これまでいろんなプロジェクションマッピングを見たが、今までで一番凄かった。」(20代、男性)と語った。
もっと規模の大きなデジタルアート展は他にもあるが、やはり全ての感覚を使う“体験感”が、そのコメントを生んでいると思われる。「和食」という身近でシンプルなテーマでありながら、普段目にする事ができない神秘的で不思議な世界観を、五感をフルに刺激して味わわせてくれる。
これからのエンタテインメントの在り方の一端を垣間見た気がした。

『食神さまの不思議なレストラン』展
https://tabegamisama.com/

現在、ワークショップも開催中です。
https://nkk-artproject.com/

(※1)ボイスキャスト:松村 沙友理(乃木坂46)、若月 佑美(乃木坂46)
(※2)CGとプロジェクタの様な映写機器を用い、建物や物体、あるいは空間などに対して映像を映し出す技術の総称。
(※3)光と音響による舞台装置。

(記事:中村 健一)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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