渋谷ストーリー Vol.9 道玄坂

道玄坂のゲートウェイとも言える東急109。ほんの数十年前には最もファッショナブルなビルだったのだが、今はそのたたずまいに一抹の寂しさを感じてしまう。時代が過ぎる、その連続するコマの流れを、このビルは見守っているのかもしれない。

渋谷の駅前から西へ向かう坂を道玄坂という。その昔、道玄という盗賊がそこに巣くっていたとか、道玄庵という草庵があったとか、その由来は定かではないが、きっと昔は狐狸走り去る坂道だったのだろう。そんな都はずれの坂道も、今や店舗のひしめく繁華街に変わった。ただ、ここには他にない、陰った空気があり、そして昔から坂を見守る大きな街路樹がある。渋谷川から登ってくる古い坂道の記憶を、この樹々は保ち続けているに違いない。

道玄坂の軒を連ねる店舗は混とんとして、不思議な多様性を持つ。古くからある古美術店の向かい側に、怪しげなピンク色の看板があったり、新しいチェーン店が展開していたり。でもこの坂には、なぜか「食」のイメージがあるの私の年代のせいか。坂を上っていくと、懐かしい食事の香りが漂ってくるようだ。

私のイメージでは数十年前からあるような気がする。道玄坂と東急本店通りを結び路地にあるレンガの建物。焼肉屋さんか、韓国料理か。いつも必ず目を引くのに、実は一度の入ったことがない。一度も入らずに、ずっと残ってほしいと思う矛盾。

取り壊された空き地に、建物が建つのだろう。そして、建物がなくなってみると、そこが坂の斜面だったことが良く分かる。地名に残るだけではなくて、本当に、ここは坂の町なのだ。

(写真:瀬尾 太一)

[ Japacon× FIELDS Research Institute ]

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