時間と空間からとらえる、未来のエンターテイメントのビジネスモデルとは

近年、不況や震災などに伴う価値観の変化や環境意識の高まり、ソーシャルメディアとスマホの普及といったテクノロジーの進化が見られる。こうした中、エンターテイメントのビジネスモデルの未来を考える上で、以下の3つの視点で人々の意識・行動の変容をとらえてはどうだろうか。

  • 時間価値の高まり
  • モノやサービスに対するスタンスの変化
  • コンテンツへの接し方の変化

■時間価値の高まりと新たな余暇の捉え方

時間価値にはその物やサービスを使うことにより時間を短縮でき、別の有意義なことに時間を使える場合の節約的時間価値と、その物やサービスを使うことにより、有意義な時間を過ごせるという創造的時間価値の二面性が存在する。(参考:松岡真宏著「時間資本主義の到来」)

エンターテインメントは後者の創造的時間価値をもたらすものと考えられるが、商品・サービスの顧客接点においては前者の節約的時間価値も重要となる。

例えばマンガ媒体では、分厚い週刊誌とスマホアプリででは、後者の方が時間や場所の制約を受けず、節約的時間価値が高いといえる。

実際、昨年末に弊社で実施した小学生~64歳の男女1万人を対象としたネット調査“Fields Yoka Survey”にて、直近1年間で最もよく読んだマンガ雑誌・電子マンガはどれかという設問結果を集計してみたところ、トップは以前からトップポジションにある週刊誌の「週刊少年ジャンプ」だったが、2位(「comico」)と3位(「LINEマンガ」)は電子マンガ(スマホアプリ)という驚きの結果であった。

また「スマホの登場により時間の大切さを強く意識するようになったか」という設問の5段階評価での回答結果を集計してみると、社会的地位重視派(高校生以上の33%を占める)では46%の人が「あてはまる」又は「ややあてはまる」と回答しており、上昇志向の強い人ほどスマホによって時間に対して敏感になっていることが裏付けられた。

余暇時間には数分程度のすき間時間から数時間のまとまり時間まで様々な粒度が存在する。スマホの登場により時空間の制約から解き放たれた人々に向け、この様々な粒度の時間とそこでの行為を行う空間をどう組み合わせて考えるかで様々な余暇ビジネスのチャンスが見つけられるはずだ。

その時空間の中で人々がどういう欲求をもっているのかをとらえることが鍵となる。

「デジタル・ディスラプション」の著者であるジェイムズ・マキヴェイ氏によれば、人間のあらゆる欲求は「快適性」「多様性」「つながり」「独自性」という4つの根本的欲求の組み合わせで成立しており、特に今後のデジタル時代においてこれら4領域のより多くの欲求をより簡単に満たせるモノやサービスが大事であるという。また人々の欲求は必ずしも合理的ではなく優先順位はシチュエーションにより変化するという。

様々な余暇活動とこの4領域の欲求がどういう相対的な関係になっているのかを、”Fields Yoka Survey”の調査データをもとに双対尺度法で分析・検証してみた。その結果、時間とお金の消費が前年から伸びている人の多い余暇活動の中で、日常系のコンテンツ(スマホ・携帯ゲーム、映像配信、動画共有など)では快適性(いつでもどこでも楽しめる、便利、お得、安心・安全等)、と多様性(バリエーション、比較しやすさ)、非日常の余暇活動(コンサート、舞台など)では独自性(代替がない、自分が成長・演出できる等)とつながり(ネタになる、交流できる、運営企業に共感できる等)が相対的により求められており、余暇活動の位置づけが二極化していることが改めて裏付けられた。

逆にどちらの欲求も相対的に満たせていない余暇活動やメディアは1年前に比べ、時間とお金の消費が減少傾向にある人が多いことがわかった。時間と空間のあり方によって求められる余暇のあり方も変わってくるのである。

この分析結果をベースに、時空間の4象限からなる新しい余暇の捉え方を独自に定義してみたのが次の図である。

スマホにより公私の時空間が侵食する自宅や職場でのすき間時間として「さくっと余暇」、平日帰宅後や休日自宅で過ごす個人のまとまったリラックス時間の「じっくり余暇」、移動中や待ち時間など外でのすき間時間である「ちゃっかり余暇」、休日、友人や家族とともに外出先で楽しむ「どっぷり余暇」という4つの余暇である。

■モノやサービスに対するスタンスの変化~シェアリングエコノミーの台頭

最近マスコミでシェアリングエコノミーの旗手として、UberやAirbnbの話が盛んにとりあげられているのをご存じの方も多いと思うが、今までの経済モデルと何がどう違うのだろうか。

近代経済モデルでは人、もの、金、情報など各種リソースを企業がかかえ、利益拡大に向けてそのバリューチェーンを強化し、強力に垂直統合していった企業が市場を支配していた。

ところがインターネット、さらにはソーシャルメディアやスマホの普及などが契機として、一般の人同士が非稼働の各種リソース(一定時間使われていない機械・物・空間・人)の情報をネットで共有しあい、ソーシャルメディアなどで人とサービスの信頼性を担保しあう仕組みを構築できるようになった。

その結果、人々が様々なサービスやモノを「所有」する必要性が弱まり、低コストで必要なときにだけ「利用」できるようになってきたのだ。

いい製品をつくれば売れるという時代でなくなりつつあり、企業の優位性はネットを活用した仕組みづくりの力によるところが大きくなってきている。取引コストとユーザー価格の低減により、旧来の経済モデルで成長してきた企業にとっては脅威となってきているわけである。

■コンテンツへの接し方の変化

人々のエンタメコンテンツ接触に対するスタンスついても大きな変化が起こっている。ソーシャルメディアや無料で簡易な創作・加工ツールの普及により、創作活動とそのシェアへの敷居が一気に下がってきているのだ。

人々は作品を加工又は創作し、それを他の人とシェアすることで得られる反応からの快楽を知ってしまったのだ。もはや作品を消費するだけの存在ではなくなったといえる。この人々の変化をプロシューマー化と呼んでいる。

“Fields Yoka Survey”でも、直近1年での各種創作経験率は、特に「世界で活躍する人物にあこがれる」層(高校生以上の日本人全体の約3割を占める)がそうでない人に比べて10ポイント以上高く、39%という結果であった。

この「世界で活躍する人物にあこがれる」層の中で創作経験のある人の更に約6割がその創作を世に公開し、さらにその2-3割が固定ファン、出展経験、収入をそれぞれもっていることがわかった。

■3つ人々の意識・行動の変化からIPビジネスを読み解く

キャラクターなどのIPビジネスを手掛けるエンタメ企業では、成り立ち、強みの違いはあるが、IPを自社以外がコントロールする多くのメディア(出版、テレビ、映画、ゲームなど)で展開し、売上・利益を拡大していくモデルが増えてきている。

しかし多くのIPや作品はそううまく収益をあげるまでに至っていない。なぜだろうか。もちろん起点となる作品そのものの魅力や面白さしだいの面もあるが、ビジネス展開面でいくつか要因がある。

一つはメディア/業界ごとに歴史が異なり思想や規制の違いがあるため、一つのIP(作品)を多数のメディアで共通の体験、一貫した思想として届けることが難しいのだ。

二つ目にメディアにより主力顧客層が異なるため、一つのIPを複数のメディアで展開したとしても各顧客の心の中でIP価値拡大サイクルがうまく回らないという問題がある。

三つ目としてはスマホの登場だ。数年前までは紙のマンガ、ゲーム専用機、テレビアニメなどの映像は別世界のメディアだったが、デジタル化とスマホの普及により、視聴者はスマホ一台でこれらを体験ができるようになってきたのだ。ところが多くの伝統的企業はノウハウが異なるため、うまくスマホ対応できていないのではないだろうか。

これに対して、下図のような4象限で人々の欲求をとらえ、一貫したIPの体験価値を提供する時空間循環型ビジネスモデルを提案したいと思う。

各個人の生活シーンの中で、一つのIPが自社の共有価値観(体験に対する自社のポリシーなど)に基づくプラットフォームとともに自社のコントロールのもと提供されることで、一人ひとりの心の中で循環していくモデルだ。

伝統的なクロスメディア展開モデルに変わり、IP企業はIP(作品)だけでなく、共有価値観にもとづくクラウドと連携したプラットフォームとともに「体験」を提供する。IPをメディアやフォーマット視点で循環させるのでなく、人々の欲求の違いに基づく時空間の中で循環させる考え方だ。

作品づくりも、あるメディアでヒットしたら他のメディア展開を考えていくのではなく、IP設計時から4象限での展開と連動を検討するのだ。そうすることで、企業理念に基づくIPが一貫した体験価値として提供され、「個客」の生活時空間やライフタイムにおける心の中で成長していくことになる。

更に先程ふれたシェアリングエコノミーの考え方でビジネスを組み立てることで、IP創造と育成に様々なメリットがもたらされることになる。

IP創造といった観点では、非稼動資産活用による低コスト化、プロシューマー参画によるIP供給力向上、IPに応じたクリエイターの最適マッチングなどが実現可能になるはずだ。

IP育成という観点では、スマホアプリからのプッシュ通知やレコメンデーションなどを通した作品との出会う機会の創造などがもたらされる。特定の曜日、特定の場所に限らず、人々は作品を楽しむ自由を獲得できるようになる。

2次創作活動を促す仕組みでIPの価値を高めることもできる。クラウドを通し、他の人の空いている最新の機材と空間を使って2次創作を機材の使い方とともに学ぶコミュニティイベントなどは需要があると考えられる。

スマホアプリを顧客接点とするとことで、オンラインだけでなくリアルの施設などでも様々な自社IPへの接触行動を顧客IDとともにデータとして取得していくことは、IPの創造と育成の両面から多大なメリットをもたらすはずだ。

もちろん、こうした仕組みを構築するにはかなりの労力が必要で一朝一夕にできるものではないが、水物であるヒット作品頼みではなく、継続的にファンを増やし継続・発展性のあるビジネスモデルという意味で中長期的に検討していくことが有効ではないだろうか。

(記事:吉田 和也)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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