女性コスプレイヤーが集結!池袋の未来 -後編-

女性コスプレイヤーの聖地、東京の池袋。「乙女ロード」(※1)を擁し、女性向けサブカルチャーを語る上では欠かせない存在となったこの街の発展は、90年代から徐々にオタクの街として認識されるようになった「秋葉原」の変遷とも無関係ではないと考えられています。池袋の変遷とこれからを考察します。

女性カルチャーの聖地「乙女ロード」

 

■アキバと乙女ロード 立体的観点からの相違

池袋と秋葉原の違い、そしてオタク文化とその内部にある男女差について、建築学者の森川嘉一郎氏は次のように述べています。

「オタク文化は男女が一緒にたのしむというより、むしろ離れようとするところにその特徴があります。その分離が都市的な形を帯びたのがアキバと乙女ロードだといえます。」
(『Hanako』2006年2/23号P39 マガジンハウス より)

つまり、秋葉原が男性向けオタクの街として発展をたどったことで、その分離によって女性向けカルチャーの街が池袋に形成されたという分析です。

また、秋葉原との対比という意味ではもうひとつ、男性向けカルチャーとの間にできた大きな違いに“駅からの距離”があると言われています。地図で見ると、秋葉原周辺のオタク系店舗は駅からすぐのところに分布しています。一方で池袋の乙女ロードは、池袋駅から歩いて10分ほどの離れた場所、言わば立地的にはやや制約があります。しかし乙女ロードの場合は、その制約は長所として捉えることが可能です。駅から離れていることで、乙女ロードは他の嗜好の人があまり来ない、同じ嗜好の人のみが集う場所となりました。つまり、駅からやや離れているという立地が、“隠れ家的な場所”、“秘めたる場所”として機能してきたのです。

「乙女ロード」周辺

「乙女ロード」周辺

 

■欲望がシフトした!

池袋の変遷について、池袋在住でサブカル史に詳しい批評誌「PLANETS」副編集長の中川大地さんに、乙女ロードの隆盛について取材しました。
「もともと乙女ロード地区は、1990年代からサンシャインシティで都市型の同人誌即売会が開催されていたこととも相まって、同人誌の委託販売を行うアニメショップや書店が集積したことから形成されました。その時点では、やおい(※2)やBL(※3)など、秘めた嗜好を共有する人々のすれ違いの場だったわけです。そうしたマニアックな層にターゲッティングした滞在型のスポットとして、2000年代半ばから執事喫茶などのコンセプトカフェなどが進出したことで、女性向けオタク街としての総合性が備わっていきます。」

「PLANETS」副編集長 中川大地さん

前述したように、その意味で駅近くの繁華街から離れている乙女ロードの立地は、女性のオタクにとっては理想的な環境でした。しかし、メディア露出が増えて乙女ロードの認知が進み、観光的な興味で訪れるライトな客層が増えていくにつけ、街の様相が大きく様変わりしていると中川さんは分析する。
「端的に言えば、 “隠れたい”ではなく“見られたい”という欲望へのシフトです。自己表現の場がSNSや動画投稿サイトに広がったこととも相まって、オタク趣味自体が、しだいにオープン化・カジュアル化していきました。とりわけ象徴的なのが、コスプレ文化の浸透です。コスプレイヤーの大半は女性ですが、乙女ロード近辺にコスプレ衣装やウィッグの販売店、撮影スポット、ショースペースなどが、2010年代以降は重要な形成要素として目立つようになっています。これに近年、もともとオタク系ではないハロウィンの仮装イベントの定着も重なって、池袋は“コスプレの聖地”にもなりつつあります。」

 

■女性カルチャーの発信地へ!

こうした動きを受けて、豊島区では乙女ロードマップを作成することに加え、一昨年より「池袋ハロウィンコスプレフェス」に協賛したり、主催事業の「東京マンガ・アニメカーニバルinとしま」にコスプレイベントを取り入れるなどの試みを始めています。
「スポット的にも、乙女ロード周辺だった女性カルチャーエリアは、池袋駅方面に向けて広域化しています。例えば2012年11月には、駅から5分の東池袋中央公園の向かい側にアニメイト池袋本店が移転したことで、オタク客の流れが大きく変わりました。また、2014年10月には駅東口に隣接するP’Parco内にニコニコ本社がオープンし、ニッチな歌い手たちや乙女ゲームのファンイベントなどが日常的に開催され、さらに幅広いオタク系カルチャーの発信地になっています。」

 

■『池袋の劇場化』

もはや「乙女ロード」ではなく、「乙女エリア」と呼ぶのがふさわしいのかもしれないほどの広がりを見せ始めた、池袋周辺の女性カルチャー。乙女ロード周辺の今後について、中川さんはこう展望します。
「コスプレをはじめ、イベント時やクローズドな空間に限られていた女性主導のオタクカルチャーが常設化・全域化して、『池袋の劇場化』が進みつつあります。それが雑多な人々の集まる総合繁華街としての元々の性格と結びついて、さらに予測不可能なスポットやカルチャーの発生につながれば面白いなと思いますね」
女性カルチャーの隠れ家として機能していた池袋が、そのまま女性カルチャーの情報発信のための劇場へ。そして女性コスプレイヤーの彩る街へ。
女性カルチャーそのものの変遷と重なるようにして、池袋の街もまた、ドラマティックに変化を遂げつつあるのかもしれない。

池袋乙女マップ(豊島区公式ホームページより)
http://www.city.toshima.lg.jp/132/bunka/kanko/006993/documents/otomemap2015.pdf

(※1) 「サンシャイン前」交差点から、春日通りの「東池袋三丁目」交差点までの200mほどの通りの通称。女性を対象にしたアニメグッズや同人誌などを扱う店舗が密集している。
(※2) 主に男性同士の恋愛をテーマとした女性向けの二次創作分野のこと。801とも表記される。
(※3) ボーイズラブの略。主に男性同士の恋愛を扱った、女性向けの一次創作・オリジナル作品や商業作品のこと。

>>前編はこちら

(記事:中村 健一)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

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