中国の若者に人気な日本アニメとは?
その背景と彼らのヒーロー像も聞いてみた

三年前に日本を抜いて15兆円の規模になった中国コンテンツ市場は、近年さらに成長中。昨年、中国ゲーム市場規模が世界1位になり、映画市場は前年比4割増の8,000億円となったことで、世界中から注目を集めている。そんな中国はここ数年、日本コンテンツ市場との関わりを深めてきている。今回の研究では中国コンテンツ市場を支える80、90年代生まれの若者に半年をかけてインタビューを実施し、彼らのコンテンツ受容度とヒーロー像について分析を行った。このレポートは、なぜこの世代が日本のコンテンツに馴染みがあるのか、彼らの生活背景は彼の好みにどういった影響を与えているのか、日本でマイナーなコンテンツでも中国でヒットすることがあるのはなぜか、などのいくつかの疑問に答えるものとなっている。

調査の結果、子供時代に日本のアニメーションに強く影響を受けた中国の若者は、現在でも日本コンテンツに好んで触れる傾向があり、最も魅力と感じているのは、コンテンツにおける人間性の描写であった。また、彼らは現実の社会問題について深く考えることを好むため、中国の社会的イシューに結び付くテーマを持つコンテンツが人気となる傾向があった。その一方で、日本の学校における団体活動や、日本の伝統文化、街の風景に憧れを持っている様子がうかがえた。
中国の若者は、自国の教育や変動的な社会背景の影響により、強い信念や目標を持ちながら、欠点も併せ持つ人間らしいヒーロー像を求めているようだ。

■中国における日本ンコンテンツの現状

『ドラえもんStand By Me』の興行収入が100億円突破したほか、『進撃の巨人』は配信サイトで4億回再生、『ナルト』のモバイルゲームは一か月で1,000万ユーザーを獲得するなど、日本コンテンツは中国で人気を博している。2011年にテレビ東京が中国の配信サイト「Tudou」と提携し、日本アニメの同時配信が始まって以降、中国の動画配信サイトが日本アニメの配信権を購入することは一般的になった。近年は競争の激化によって配信権の販売額が高騰し、有名アニメでは一話(30分)が1,000万円で取引されていると聞く。アニメのみならず、ゲーム化権の取得や製作への出資、製作委員会への加入などを行う中国企業も増え始めている。

■80、90年代生まれの世代

中国人口の3割しかいない80、90年代生まれの若者は現在、映画市場、Eコマース市場、海外旅行市場の平均7割を占め、消費の中心となっている。彼らは中国の時代背景やテレビ放送政策等により、幼少期に多くの日本アニメに触れていたため、中国で最も日本アニメに馴染みがある層と言える。

■調査結果1-コンテンツに接触する理由

中国の若者が日本コンテンツに接触する主な理由は3つで、①「昔を懐かしむ」、②「現実について改めて考える」、③「憧れの異文化に触れる」にまとめられる。

①「昔を懐かしむ 」

昔のコンテンツをみてノスタルジーを感じることは世界的に起こっているが、中国の80、90年生まれの若者が他の世代と大きく違う点は、ノスタルジーを感じる対象が主に外国のコンテンツでありその中でも日本のアニメが一番多いことである。
中国でテレビが普及し始めた80年代当時、国産番組はまだ少なかったため、海外からテレビ番組を大量輸入していた。80年代から90年代末まで、日本のアニメは子供向け作品の主力番組であり、1999年の放送総数は476本とピークに迎えた。『スラムダンク』は中国でバスケブームを起こし、『セーラームーン』は女子全員の憧れとなり、『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』、『聖闘士星矢』などは子どもの遊びとコミュニケーションにつながって行った。

画像引用:SLAM DUNK(集英社)

従って、80、90年代生まれの若者は幼少期の日本アニメを観るとノスタルジーを感じ、『名探偵コナン』や『ちびまる子ちゃん』などの長寿番組に限っては幼少期からずっと観続けている。更に、幼少期に流行っていた作品の魅力点が、現在の作品に受け継がれていることも多く見受けられる。特に面白いのは、ルーツとなる作品が日本とは違う点だ。例えば、グルメ作品の場合、日本では『美味しんぼ』『クッキングパパ』『味っ子』などがルーツとなっているが、中国では『中華一番』である。日本ではマイナーなこのアニメ作品が、80、90年代の若者にとってはグルメ作品のルーツとなっており、昨年中国でヒットした日本のアニメ『食戟のソーマ』も、『中華一番』が基盤となり人気が出たようだ。このように、80、90年代の若者においては、日本のアニメについても中国独自の基盤ができつつある。

左画像引用:真・中華一番(講談社)、右画像引用:食戟のソーマ(集英社)

②「現実について改めて考える」

今回の調査対象者は、現在視聴している日本コンテンツの中において〝人間性″の描写を重視しており、人間や社会について深く考えることができる内容を好む傾向があった。視聴のきっかけは中国で規制されている “エロ”、 “グロ”描写であることが多いのも事実だが、現代中国の社会的イシューと共通したテーマを持つ内容が、特に人気があるようだ。例えば、アニメ『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』は日本においてあまり大きな話題にはならなかったが、中国の若者が集まる動画サイト「ビリビリ動画」において、2015年に放送された作品の中で最も視聴されたアニメとなっている。この作品も、視聴のきっかけはエロ描写であったと考えられるが、同作に描かれている性的コンテンツの廃止や発言の監視などの世界観設定が、中国の規制や政策、文化習慣を連想させ、共感を呼び、ヒットにつながったと思われる。

③「憧れの異文化に触れる」

勉強ばかりの学校生活や一人っ子政策の影響で、中国の80、90年代生まれの若者はコンテンツで観た日本の学校生活や団体活動に強い憧れを持っている。特に、ジャージのような制服で過ごしている中国の若者の目には、日本の制服が一つの文化として映っており、憧れを持っている人も多い。また、一緒に遊べる兄弟がいないことや、学校が勉強をする場でしかない彼らにとって、日本の部活動や花火大会のような休暇中のイベントや団体活動にも強い憧れがあるようだ。そのほか、コンテンツを通して、伝統的な日本家屋、浴衣や着物などの伝統衣装が町の風景や生活の中に溶け込んでいる風景を目にし、刺激を受けているようだ。中国は歴史が長く伝統文化も多いが、現代社会においてあまり重視されておらず、生活の中や風景で見られることが少ないからである。

■調査結果2-中国の若者が持つヒーロー像

調査対象者に、アメリカ、日本、中国のヒーローについて比較してもらった。その結果、中国と日本のヒーローには “団体主義”と“成長する”という二つの共通点があり、日本のヒーローは3ヶ国の中で最もリアリティがあるという意見が多く出た。
また、中国のヒーローは日本やアメリカと違い、架空のキャラクターではなく政治家や歴史上の人物など実在する人物を想起するようだ。しかし、これらの実在の人物は教科書から学んだもので、教育上、欠点があまり書かれていない実状がある。そのため、自分たちと同じ人間らしさを感じられず、あまり人気はない。一方で、ニュースで報じられる、震災時期の中国解放軍や医者、消防員など、危機の時に人を助ける職業は中国の若者にも尊敬され、ヒーローとして認められている。
次に、好きなヒーローキャラクターとその特徴を聞いた結果、「強い信念を持つ・諦めない・ぶれない」、「性格に欠点がある人間らしさ」を最も重視していることが分かった。「強い信念を持つ」ことを求める要因として、中国がいま変動的な状況にあることが考えられる。近年、すぐに流行ってはすぐに廃れるファストフード文化が主流となってきている。芸能人も、ファッショントレンドも、流行りの言葉も、様々なことが一気に流行ってはすぐ消えて行く。例えば音楽番組が流行っている時には、全てのテレビ局が音楽番組をやるが、しばらくするとリアリティショーが流行り、音楽番組がすぐリアリティショーに取って代わられる。
更には、宗教を信じる人が少なくなり、伝統文化や歴史も重視されなくなっている。このように流動的に変わっていく環境の中では、一つのことをやり続ける人がかっこよく思え必要とされる。また、「性格に欠点がある人間らしさ」に魅力を感じるのは、前述したように、中国におけるヒーローが美化され過ぎてしまいリアリティを感じない存在となってしまったからだと思われる。

これらの調査・研究から、今後、中国若者向けにコンテンツを作る時には、以下のことについて留意するとよいと思われる。まず、知的好奇心を満たせる・議論したがる壮大な世界観が受けやすい傾向がある。それに加えて、中国の社会問題や若者の悩みと連想できる内容を入れたら人気になる可能性が高まると考えられる。明確な目標と信念を持ち、変わった一面がある主人公であれば人気が出やすいだろう。

(記事:方 錦怡)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。

■おすすめ記事

・男らしいだけのヒーローはいらない!”女子力が高くなった”いまどき男子の求めるヒーローの特徴を研究

・女性の心も掴むヒーロー作品とは?消費行動タイプ別の分析から見える、女性の好む作品傾向をレポート

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です