感動する脳と心のしくみ:号泣しやすい環境作りでストレスを発散!

アニメを観る、マンガを読む、ゲームで遊ぶ…私たちは日ごろからたくさんのコンテンツに触れ、そして“ドキドキした”、“面白かった”、“つまらなかった”といろいろなことを感じます。これらの“感情”はどのようにして生まれるのでしょうか。人の感情が生まれる仕組みを掘り下げてみると、無意識下の反応が重要な役割を持っていることが分かりました。本記事では、人の感情が生まれるまでに脳で起こっている無意識下の反応とコンテンツ体験との間の関係性について、リサーチを基に、情動とコンテンツとの関係について考察を行いました。

■感情と情動
私たちが普段“感情”として認識しているものは、無意識下で起こっている“情動”と呼ばれる体の反応を意識したものだと言われています。情動はもともと種の存続のために野生時代から備わっている反応で、脅威や報酬、環境に対し瞬時に体内環境を変えます。この機能は遺伝子に組み込まれており、現代においても無意識に好き嫌いを判断しているのだそうです。情動反応のほとんどは無意識のまま終わりますが、一部は感情として意識にのぼります。

■情動が感情になるまで
リサーチの結果、意識にのぼる情動には特徴があることが分かりました。

1.一定以上の強さがあること
情動は種の存続のために備わっている反応であるため、脅威や報酬としての意味を持つ刺激には強く反応する一方で、生命活動に関係のないものに対する反応はあまりつよくないようです。本能的に強く反応を示す要素は、不安・恐怖・競争などで、反応が強いほど、体内環境の変化量も大きくなります。

2.一定時間以上持続すること
どんなに強い刺激であっても、一瞬で終わるものは種の存続に関わらないものとみなされるため、意識化されないようです。人間の場合、意識にのぼらせるには最低でも0.5秒以上の持続が必要であると言われています。

これら2つの条件をクリアした情動は、意識するべきものとみなされます。情動による体内環境の変化によって心拍の増加や発汗、筋肉の硬直などが起こりますが、この反応だけでは“恐怖”なのか“怒り”なのかといった区別をすることは困難です。そこで脳の中では、過去の経験や知識、周囲の状況などから感情を後づけして意識にのぼらせているようです。これが、同じ刺激であっても人によって感情が異なる理由です。
例外として、1つ目の条件しか満たしていない場合でも感情を持つケースもあります。大きな爆発音に“びっくりする“などがよい例です。私たちは”びっくりしたから身体が動いた“ように感じますが、実際は身体が動く方が先に起こっているのだそうです。このケースは、爆発音が持つ脅威があまりに強く、体内環境が過剰に変化することで身体が動いてしまったもので、実はこの時点ではまだ”びっくりした“とは意識していません。あまりに強い刺激に身体が動いてしまったことで例外的に感情の後づけが行われるため、”びっくりした“と感じるのは反応の後ということになります。
これまでのコンテンツ作りでは“楽しい”や“面白い”、“感動する”など、人が意識できる部分に対してどのようなアプローチをしていくかが考えられてきましたが、それらの背景には情動という反応が関係しているのです。

■無意識下の情動の意味
ここまでは、意識にのぼる情動について述べてきましたが、無意識下の情動はコンテンツ体験において無意味なものなのでしょうか。そんなことはありません。無意識下の情動も、体内環境を変化させています。それらの変化はほとんど感じ取ることができませんが、小さな変化でも重要な意味を持っているようです。先ほどの情動が感情になる過程の中で脳が行っていたことを、もう少し詳しく見ていきます。

普段の生活の中で、人は様々な刺激を受けています。その中には、部屋の温度や時計の音など意識から外れているものも多くありますが、こういった小さな情報も脳の中では一つ一つ処理が行われているそうです。脳の中ではまず、それらの刺激が脅威か報酬か、好きか嫌いか、満足か不満か、などを判断し、どうすべきかを決定します。これは本能的な決定であるため、ほとんどが逃げたり戦ったり捕えたりするための準備ということになります。これによって引き起こされる体内環境の変化は、心拍を上げたり、筋肉を硬直させますが、刺激がとても強かった場合は、さきほどの“びっくり”のように、身体が動くほどの変化をもたらすこともあります。意識にのぼらない情動であっても、ちょっとした気分の変化に影響を及ぼしていると考えられています。

■「号泣」に見るコンテンツと情動の関係
コンテンツと情動には具体的にどのような関係があるのでしょうか。ここでは、情動のひとつである“号泣“に注目し、コンテンツにおける情動の役割を考えて行きます。

感動すると無意識に“号泣”という反応が起こることがあります。これは“びっくり”の例と似た仕組み、つまりコンテンツのワンシーンの刺激がとても強かった結果、引き起こされる反応です。号泣の涙には体内に溜まっていたストレス物質と、ストレスから解放されたときに分泌されるリラックス物質が含まれているそうです。号泣は、体内に溜まったストレス物質を体外に排出する効果があると言えます。号泣によってストレス発散になるほか、思わぬ反応が起きたことで強く印象に残る等の効果がうまれます。コンテンツを体験する際、これらのストレス発散や印象などが満足度に大きく関わっていることが考えられるため、号泣する作品のほうがそうでない作品よりもコンテンツ体験をより良くしていると予想されます。

また、号泣ほど強い反応でなくても、無意識下で効果が得られていると考えられる例はあります。例えば主人公が追いつめられるシーンでは、“追い詰められている”というだけでも危機感がありますが、室内よりもじめじめとした洞窟の中で起こっている方がより危機感が増すのではないでしょうか。これは、意識下では“追い詰められた…!”としか思っていなくても、無意識下では環境の不快感にまで反応しているからだと考えられます。

■情動と外的な環境の関係性
無意識下で進む反応には抑制がかけられているそうです。この抑制は、人が成長するにしたがって自然に身に着ける“感情のままに行動してはいけない”という習慣から起こるもので、この抑制が邪魔をして、素直に笑ったり号泣したりできない場合があります。
この抑制を緩和する方法を、視聴環境の面から考えてみました。

1.できるだけ落ち着く空間で視聴する
人が感情に抑制をかける度合いは、“どこにいるか“と”誰といるか“が大きく影響すると考えられています。例えば、先生と二人きりの教室や知らない人ばかりの待合室などでは、情動に左右されて行動しては危ないと判断され、強い感情の抑制がはたらきます。一方で、自分の部屋や親しい友人の家にいる状況では、身の危険を感じずリラックスしているため、感情抑制が弱まります。作品を視聴する際は、自分が落ち着く空間づくりを心掛けると良いかもしれません。

2.視聴する姿勢を工夫する
視聴する作品のジャンルに合わせて姿勢を工夫するだけでも、作品の感じ方を変えられるかもしれません。嬉しいとき、人は腕を高く上げ、全身をめいっぱい伸ばします。反対に、悲しいときは身体を丸めて小さくなります。このように人の感情によって姿勢が変化しますが、これとは反対に、姿勢によって感情が変化することが実験によって証明されました。つまり、椅子に寄りかかり全身を伸ばしたような姿勢で視聴するとポジティブな感情になりやすく、身体を丸めて視聴するとネガティブな感情になりやすくなります。面白いことに“恐怖”だけは例外で、身体を丸めるよりも伸ばしたほうがより強く恐怖を感じます。これは、恐怖に対して身体を丸めることは防御姿勢となり、安心感を与えてしまう為であると考えられます。

3.夜間や暗い所で視聴する(号泣)
号泣に至る条件のひとつは“ストレスからの解放”であると紹介しましたが、もう一つ重要な条件があります。“副交感神経が優位になること“です。簡単に言うと、身体が”安心・リラックス“の状態になることです。また、生物には本能的に副交感神経を優位にさせる機能が備わっており、朝はよく食べ、よく動くように、夜はリラックスして眠くなるように体内環境を整えています。つまり夜は身体が勝手にリラックスしやすい状態になっていくのです。日中であっても、暗闇であれば身体が夜と勘違いを起こすため、この効果は発揮されると考えられています。映画館で見る映画が感動的な理由の一つかもしれません。

ちょっとしたことではありますが、情動について考え、普段なかなか意識していないところにまで目を向けて変えていくことで、コンテンツ体験がより豊かなものになるかもしれません。

(記事:小室つぐみ)
(写真:Freepik.com)

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