『あしたのジョー』の ちばてつや先生インタビュー
“その生い立ちと、漫画の道への転機”vol.3

Fields × JAPACON “Contents & Human Future Lab.では、漫画家の先生のヒーロー像を毎月おひとりずつインタビューしていく予定です。

このインタビューでは、作家の皆さんの成り立ちや作品に対する 想いを、ヒーロー、ヒロインという言葉をキーワードにしてお伺いしていきます。

お一人目は、ちばてつや先生です。

先生は「あしたのジョー」、「あした天気になれ」、「のたり松太郎」などの代表作をもつ、日本を代表する漫画家のお一人 で、現在は公益社団法人日本漫画家協会の理事長もお勤めになっています。矢吹丈を生みだした、ちば先生の幸福観、ヒーロー像に迫ります。

ちばてつや先生インタビュー第3弾(最終回)
「ヒーロー・ヒロインについて」

瀬尾:
最後に、先生にとってヒーローとはどのような人ですか。

ちば先生:
私は、アメリカン・コミックの万能なヒーローにはあまり親近感が持てないのです。感心はするんだけど、感動がありません。ところが身近にいて小さな目標を 持って頑張っている普通の人を見ると応援したくなるんです。私の描く主人公は、あちこち欠点はあるけれども大事な仲間や友人のためには時には命を懸けるよ うな人です。

瀬尾:
先生は、最初から優れたスーパーマンではなく、成し遂げるために、もがきまわる人物を描かれるのですね。今の20歳の若者は、日本経済が下降し続けていることしか知らず、夢や希望が持てずにいると聞きます。先生から若者へ向けてメッセージはありますか。

ちば先生:
大人の責任のように感じます。景気が悪くなったといっても、明日の食べ物が買えないの?寝るところがないの?と聞きたくなります。
私が中国から引き上げてくる途中、道端に落ちていた湯気を立てたおいしそうなまんじゅうを食べようとしたら、母親に思いっきり叩かれたことがありました。食べようとしていたのは馬の糞でした。そのくらい空腹でした。
大人が自信を失うようなことばかりを若者に言う。私は今ほどいい時代はないと思っています。近隣諸国の言動や動きが時々心配になることがありますが、少な くとも、今、日本中どこでも食べ物が捨てられるほど余っている。パソコンの普及や交通網の発達で便利になったし、どこの国に比べたって治安もいい

瀬尾:
そのような状況下、世の中を元気にするヒーローが必要なのではないのかと思っているのですが、先生のヒーローはどなたですか。

ちば先生:
最近の私のヒーローは、皆さんもご存じでしょうが、以前ウルグアイの大統領を務められていた「世界一貧しい大統領」として有名なホセ・ムヒカさんです。国連での彼の演説には感動しました。貧しい国民を助けたいとゲリラ活動をして長い間投獄された時には、蟻と話すことしかできなかったと話していらっしゃいました。命がけで国を変えようとして、厳しい経験をした方です。

瀬尾:
そういえば、ブータンの国民の幸福度は97%ときわめて高いですが、決して経済的に発展をした国ではありませんよね。

ちば先生:
そうです。幸せはモノの豊かさではないのです。幸せな世界に生きているのにそれに気づかないのは残念です。私はどん底の生活の中、明日の食べ物もない病気 の家族を助けたいという目標がありました。今の若者はそういった目標を持ちにくいのかもしれませんね。ホセさんもおっしゃっていましたが、現在の豊かさに気づかず、いや、豊かさに気づきながらさらにもっともっとと求め続ける人間は本当に貧しい人だと思います。それを今の若者に伝えたいです。

瀬尾:
苦しみの中、人との触れ合いの中、努力して自身を高めていく人が先生のヒーローですか。

小林:
先生の作品のヒーローとは誰なのでしょうか。

ちば先生:
相撲漫画を例にとると主人公の松太郎は、大きな体に恵まれながら「心技体」の「心」と「技」がそろわずに、「力」だけなので、横綱にはなれなかった。対して、田中は、体が小さく、横綱になれるとは思っていないけれど、少しでも昨日より今日、今日よりも明日、成長し続けたいと毎日努力をし続けます。
田中が私のヒーローです。

瀬尾:
先生の描かれる主人公は、確かに最高位には上り詰めていませんね。

小林:
最高位に上ってしまうと、そこでゴールというお気持ちが先生の中にあるのですか。

ちば先生:
ふつうはどんなに頑張ってもなかなかトップには上れない、簡単に上れてしまったらちょっとウソくさい話になってしまう気がするのです。

瀬尾:
先生の中では、力がないのに一生懸命努力し続けている人が幸福なひと、そして、ヒーローなのでしょうね。

ヒーロー像インタビュー第一弾として、先生にお話をうかがえたことはとても意義深かったと思っています。本日は長時間どうもありがとうございました。

編集後記:
取材陣一同、先生の誠実で暖かいお人柄とお話に深く感銘を受けました。 私たちがちば先生を取材させていただいた4月14日は、熊本地震(前震)が発生した日でした。
その直後から、ちば先生はご自身のキャラクター達が熊本県のマスコットキャラクター「くまモン」を応援するイラストなどを描かれ、熊本を応援されていらっ しゃいます。この取組みは多くのニュース等でも取り上げられていましたが、まさにちば先生の優しいお人柄がなせるものであると実感いたしました。皆様も是 非、ちば先生のブログと「くまモン」をご覧ください!

千葉先生のぐずてつ日記(ブログ)

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■ インタビュアー紹介

瀬尾太一:
コンテンンツ・ポータルサイト運営協議会(JAPACON)統括主査。写真家。日本写真著作権協会常務理事、日本複製権センター副理事長などを務める。クリエイターをはじめ、幅広いジャンルの方々と交流を持つ。

小林真希:
フィールズ株式会社 研究開発室(フィールズ総研)勤務。

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